障害を理解することから、支援は始まる
~ ADHDの特徴と支援方法 ~
SHIP専門研修レポート Vol.1

障害福祉サービスのプロとして、利用者様が抱える病気や障害を理解して関わることは、支援者として大切な責務です。そのためSHIP(中軽度向け支援部門)では、「障害特性理解」の研修を半期に一度の必須研修とし、業務時間内で取り組めるようにしています。

最近では、主たる病気や障害の背景に「神経発達症(発達障害)」の特性が重なっているケースも多く見受けられます。

そこで今回は、その代表例の一つである『ADHD(注意欠如・多動症)』をテーマに、研修内容の一部をご紹介します。

大人の社会生活で「致命的な3つのT」

ADHDの特性は、大人の社会生活のさまざまな場面で「困りごと」として現れます。本研修では、その代表的な「やらかし」を、大人の社会生活で致命的な「3つのT」として取り上げました。

① Time|時間の管理

「遅刻する」
「時間ギリギリがデフォルト」
「気づいたら、約束の時間が過ぎていた…」

友人関係なら「またか(笑)」で許されても、仕事となると話は別です。仕事相手に損失を与え、その責任を被る上司や同僚もいます。「そういうキャラクターだから」では済まされません。

本人も「ちゃんとしなきゃ」と思っています。それでも、いつの間にか別のことに気を取られたり、目の前のことに没頭したりして、「分かっているのに、うまくコントロールできない」という困りごとがあります。

 

 ② Task|物やタスクの管理

「財布をなくす」
「カバンに入れたはずのプレゼン資料がない」
「頼まれていた仕事を忘れる」

気づいた瞬間の驚きと焦り。

そして、「またやってしまった…」 という自己嫌悪。

失敗を繰り返すうちに自分への信頼を失い、さらに周囲の冷ややかな態度や、仕事を任されなくなっていく寂しさが追い打ちをかけます。

本人だって忘れたいわけではありません。「今度こそ」と思っているのに失敗を繰り返し、「なぜ自分は普通にできないんだろう」と自信を失ってしまうことがあります。

 

③ Taijin|対人コミュニケーション

「新しいものに飛びつく」
「興味のあるものに没頭する」
「でも、地道に粛々と進める仕事は後回し」

この前の話は何だったの?

毎度方針が変われば、振り回される人たちは疲弊します。

「空気が読めない」「人の話を聞かない・忘れる」「自分のことしか考えていない」と評価され、「巻き込まれないように」と人が離れていくこともあります。

でも、相手を不快にさせようとしているわけではありません。新しい刺激に惹きつけられやすく、刺激の少ないことに注意を向け続けたり、優先順位に沿って行動したりすることに難しさがあります。

 

 

「ちゃんとしよう」と思っているのに、なぜできない?

本人も失敗するたびに、「次こそは、ちゃんとしよう」と思っています。それなのに、なぜ同じことが繰り返されるのでしょうか。

その仕組みを理解するヒントになるのが、ADHD研究者のSonuga-Barke氏らが提唱した「Triple Pathway Model(トリプルパスウェイモデル)」です。

少し難しそうな名前ですが、ADHDの「自己コントロールの難しさ」を車の運転にたとえると、分かりやすくなります。

「ブレーキが効きにくい」
「楽しそうな脇道に引っ張られる」
「時計の計測がズレている」

この3つの特徴をもった車で、社会という道路を走っているとイメージしてみてください。

 

① 抑制制御の障害(「ブレーキ」が効きにくい)

車を安全に運転するためには、アクセルだけでなく「ブレーキ」が必要です。

私たちの脳も同じです。スマホの通知、周囲の話し声、突然浮かんだアイデアなどに対して、「今はこっち」とブレーキをかけることで、必要なことに注意を向け続けています。

しかしADHDでは、この「ブレーキ」が効きにくいことがあります。

そのため、目の前の刺激に注意を奪われたり、浮かんだことをすぐ話したくなったりして、「仕事が抜ける」「物をなくす」「話が脱線する」「考える前に行動する」といったことが起こりやすくなります。

 

② 報酬遅延の障害(楽しそうな脇道へと自動操縦)

今度は、目的地へ向かって車を走らせている途中に、

「こっちの方面、なんか面白そう!」

という脇道が現れたとします。

ADHDでは、先にある大切な目的地よりも、「今すぐ得られる楽しさや刺激」に強く惹きつけられる傾向があります。

目的地へ向かおうと思っているのに、気づけば楽しそうな脇道へ。

新しいアイデアには飛びつける一方、地道な仕事は後回し。その結果、先延ばし、仕事の抜け漏れ、時間ギリギリといった「やらかし」につながります。

 

③ 時間管理の障害(時間の計測器がズレている)

ここで、ちょっとした実験です。

目をつむって、「1分経った」と思ったところで目を開けてみてください。

実際には何秒経っていたでしょうか?

ADHDでは、そもそも「体内時計」がズレやすく、安定しにくいことが研究から分かってきました。※参考文献:文末に記載

そもそも時計の計測がズレていたら、「まだ全然、大丈夫!」と思っていても、実際には約束の時間に間に合わないかもしれません。

ADHDでも同じように、「えっ、もうこんな時間!?」「思ったより時間がかかった…」となり、時間ギリギリや遅刻につながります。

 

 

「やらかし」の裏側にある気持ち

こうして考えてみると、ADHDの「やらかし」は、単純に「やる気がない」「だらしない」という話ではありません。

ブレーキが効きにくく、楽しそうな脇道に引っ張られ、時計もズレやすい。

それでも、社会では周囲と同じように目的地までたどり着くことを求められます。

必要なのは、「もっとちゃんと運転しなさい!」という叱責ではありません。

その人の「運転システム」の特徴を理解し、「どうすれば安全に目的地までたどり着けるだろう?」と一緒に考えること。

そこから、ADHDの治療や支援が始まります。

 

 もう一つ見逃せないのが、失敗を繰り返してきたご本人の気持ちです。

やらかした直後には、「焦り」「後悔」「罪悪感」。

そして時間が経つにつれて、「自己嫌悪」「自分への信頼の低下」「居場所のなさ」へとつながることがあります。

こうした『二次的な傷つき』も、支援するときには見逃せません。

だからこそ、本人に「忘れないように」「時間を守って」と求めるのではなく、その人に合った「できる仕組み」を一緒につくることが大切になります。

 

 

治療方法|ADHDの中核症状に対する「薬物療法」

私たちの脳では、「神経伝達物質」が神経細胞同士の情報を伝えています。ADHDとの関係で特に重要なのが、ドーパミンとノルアドレナリンです。

簡単にいうと、

ドーパミン → 興味や報酬、行動を起こすことなどに関係する

ノルアドレナリン → 注意を向けたり、集中を維持したりすることなどに関係する

神経細胞同士が「電話」で連絡を取り合っているとすれば、この2つはメッセージを届ける電波のようなものです。

ADHDでは、単純に電波が「足りない」のではなく、必要な場所・タイミングで情報をうまく伝える調整が難しいと考えると分かりやすいでしょう。

ADHD治療薬は、こうした神経伝達物質の働きを調整し、注意や行動をコントロールするための情報が働きやすい状態をつくります。

車にたとえるなら、薬が代わりに運転するのではなく、ブレーキや計器を働きやすくして「自分で運転しやすい状態」に近づける。

薬物療法は、ADHDの有効な治療方法として推奨されています。

 

支援方法|「苦手」を環境と支援者が補う

福祉施設であるSHIPにとって、ここからが最も大切なところです。

本人に「もっと頑張って」「ちゃんと気をつけて」と求めるのではなく、苦手な機能を「環境」や「支援者」が補っていくという考え方です。

車にたとえるなら、運転手を叱るのではなく、カーナビをつけつつ、助手席から必要な情報を伝えるイメージ。

「何があれば、この人はもっと運転しやすくなるだろう?」

そんな発想が、SHIPで学び、実践していく支援方法です。

 

① 抑制制御の障害 →「ブレーキを環境で補う」

「ブレーキ」が効きにくいのであれば、本人の我慢だけに頼りません。

机の上の物を減らす、スマートフォンを視界から外す、静かな場所で作業するなど、注意を奪う刺激そのものを減らします。

さらに、「いったん止まる」「ゆっくり息を吐く」「その場を離れる」など、自分で使える「外付けのブレーキ」も一緒に探します。

 

② 報酬遅延の障害 →「小さなご褒美を近くに置く」

「楽しそうな脇道」に引っ張られやすいのであれば、途中にも小さな達成感をつくります。

「ここまで終わったら好きなことをする」というプレマックの原理や、達成ごとにポイントを貯めるトークンエコノミーなどがあります。

本人の「やる気」に頼るのではなく、やる気が続きやすい環境を整えます。

 

③ 時間管理の障害 →「時間を見える化する」

「頭の中の時計」がズレやすいのであれば、外に「時計」をつくって補います。

スケジュール、リマインダー、タイムタイマーなどで時間を見える化する。長時間の集中が難しければ、ポモドーロテクニックなどで作業と休憩を区切る。

「時間を守って」と注意するのではなく、時間を守りやすい仕組みをつくります。

 

④ SHIPでは、タスクペディアを無料提供

SHIPでは、ADHD当事者が開発したタスク管理の習得を支援するツール『タスクペディア』を無料で提供しています。

1,気になることは頭の外へ出して見える化

2,プロセスは細かく簡単に「一歩目」の負担を下げる

3,あとはやるだけ! 手をつけさえすればサクサク進みます

どんなに悩んでも仕事がうまくいかない人のために、ぜひご活用いただけたらと思います。

 

 

「できない」を本人だけの問題にしない

「この人は、なぜできないんだろう?」ではなく、「何があれば、この人はできるだろう?」

本人の努力だけでは難しいところを、環境や道具、支援者が補っていく。

SHIPでは、こうした視点を大切にしながら、一人ひとりに合った支援方法を本気で考えています。

そして、そのためには支援者自身が学び続けることも大切です。

SHIPでは、障害特性や支援方法を学ぶ研修の機会をたくさん設けています。そのため、福祉の仕事が未経験でも、「人の役に立つ仕事がしたい」「支援についてきちんと学びたい」という方であれば、働きながらでも着実に専門性を身につけていくことができる職場です。

また、すでに福祉の仕事をしていて、

「今の支援方法で本当にいいのだろうか?」
「もっと根拠をもって支援を考えたい」
「支援について仲間と話し合える環境で働きたい」

そんな思いを抱えている方にとっても、SHIPは転職先の選択肢の一つになるかもしれません。

私たちも、まだまだ学びの途中です。

だからこそ、一緒に学び、一緒に考えながら、よりよい支援をつくっていける仲間と出会えたら嬉しく思います。

採用情報

<参考文献>

① Barkley et al.(1997)
ADHD児と対照児を対象に、12・24・36・48・60秒の時間再現課題を実施。ADHD群では時間再現の正確性が低いことが示されました。
Barkley et al. (1997) “Sense of time in children with ADHD”|Cambridge University Press

② Plummer & Humphrey(2009)
ADHD児と対照児を対象に、1・4・12・24・48・60秒の時間再現課題を実施。ADHD群では時間再現の正確性が低く、時間が長くなるほど群間差が大きくなることが示されました。
Plummer & Humphrey (2009) “Time perception in children with ADHD”|PubMed

③ Zhang et al.(2022)
ADHDにおける時間知覚について、55研究を統合したメタ解析です。ADHD群では、時間の推定や産出などの正確性に加え、時間判断のばらつきが大きいことが示されました。
Zhang et al. (2022) “Altered Perceptual Timing Abilities in ADHD”|PubMed