「私は怒っている」と「私に怒りがある」の決定的な違い

~怒りに飲み込まれないための処方箋~

日々の生活の中で、「ついイラっとしてしまう」

そんな場面は少なくありません。

たとえば、職場でのすれ違い、家族の態度、はたまた思い通りにいかない状況。

頭では分かっていても、感情が先に動いてしまう。

そして後から、少しだけ自己嫌悪が残る。

 

実は私自身、仕事以外の休日や夜間に、さまざまな研修を受講しながら、自分なりに研鑽を続けています。

だからこそ、誰かから「あなたは何も分かっていない」と言われたり、あるいはそのような態度をとられたりすると、無性に腹が立ってしまうことがあります。

もちろん、冷静に考えれば、相手には相手の事情や見方があるのだと思います。

それでも、その瞬間は「これだけ努力しているのに、なぜそんなふうに言われなければならないのか」という思いが湧き上がってきます。

でも、少し立ち止まってみると、その怒りの奥には、自分が大切にしている信念が隠れていることに気づきます。

「支援者として学び続けたい」
「いい加減な仕事はしたくない」
「相手の人生に関わる以上、誠実でありたい」

そうした大切な思いがあるからこそ、そこを軽く扱われたように感じたとき、怒りが強く反応するのだと思います。

つまり怒りは、単なる “悪い感情” ではなく、自分の大切にしているものを教えてくれるサインでもあるのです。

MBSR(マインドフルネスストレス低減法)を学ぶ中で、この「怒り」との関わり方に、大きなヒントをもらいました。

 

それが、

「私は怒っている」と「私に怒りがある」

この違いです。

 

「私は怒っている」と「私に怒りがある」の違い

 

一見すると、ほとんど同じ意味に見えるこの2つの言葉。

ですが、体験としてはまったく違います。

MBSRの講師養成講座では、手の平を使ったメタファーを教えてもらいました。

 

「私は怒っている」というとき、私たちは怒りと “くっついている” 状態です。

顔が熱くなり、視野が狭くなり、相手の言動を一方的に解釈してしまう。

いわば、怒りに “飲み込まれている” 状態です。

 

一方で、「私に怒りがある」と表現したとき、そこにはほんの少しの “スペース” が生まれます。

怒りはある。
でも、それと自分は同一ではない。

このわずかな解釈の違いが、その後の行動を大きく変えていきます。

 

ここで大切なのは、怒りを消すことではなく、怒りとの “スペース” を持つことです。

トラウマインフォームドケアの視点で言えば、こうした強い感情の多くは「神経系の自己防衛反応(ニューロセプション)」として生じています。

つまり、「ダメな反応」ではなく、「自分を守ろうとする自然な反応」なのです。

だからこそ、否定するのではなく、気づいて関わり方を変えていくことが重要になります。

 

ストレスとの関わり方を変える3つのステップ

MBSRでは、ストレスとの関わり方は、次のような流れで変わっていきます。

① 自動反応(飲み込まれている状態)

ストレッサーを感じると、私たちは瞬間的に反応します。

「なんでそんな言い方をするんだ」
「また否定された」

こうした思考や感情が、自動的に湧いてきます。

このとき、人は選んでいません。ただ “反応している” 状態です。

 

② 気づき(距離が生まれる)

ここで大切なのが「気づき」です。

「あ、今イラっとしているな」
「怒りが出てきているな」

そう認識できた瞬間、自分と感情の間に、ほんの少しの余白が生まれます。

この余白が、非常に重要です。

なぜなら、ここで初めて “選べる状態” になるからです。

 

③ 選択(関わり方を変える)

余白が生まれると、いくつかの選択肢が見えてきます。

・その場を少し離れる
・深呼吸をする
・気持ちを言葉にする
・いったん何もしない

どれが正解というわけではありません。

そのときの自分に合ったものを選べばいいのです。

重要なのは、「自動反応する」から「自ら選択する」へと変わることです。

 

 

怒りと向き合うための『RAIN』スキル

こうした「気づき」と「選択」を支える具体的な方法として、MBSRで学んだのが『RAIN』スキルです。

とくに、支援の現場ではこんな場面で役立ちます。

例えば、職場で強い口調を浴びせられたとき。

あるいは、スタッフ間で価値観の違いからモヤモヤしたとき。

そんなとき、次の4つのステップを試してみます。

 

R:Recognize(気づく)

「今、怒りがある」
まずはその事実に気づきます。

 

A:Allow(そのまま認める)

「こんなことで怒ってはいけない」と、自己否定せず、
「これは自動的な防衛反応だ」と、そのまま認めます。

 

I:Investigate(やさしく探る)

身体や心の状態を、やさしく観察します。

「胸がざわついているな」
「悔しさがあるな」

ここでのポイントは “分析” ではなく “気づき” です。

 

N:Nurture(いたわる/距離をとる)

最後に、自分をいたわります。

「それだけ大切にしているんだね」
「頑張ってること、わかってるよ」

そんなふうに自分に声をかけることもコンパッションを高める選択肢のひとつです。

 

気づくことが、選べる力になる

怒りそのものをなくすことはできません。

それは、人にとって自然な反応だからです。

ただし、怒りとの “関わり方” は変えることができます。

「私は怒っている」から
「私に怒りがある」へ。

この小さな言い換えが、気づきを生み、余白をつくり、選択を可能にします。

そしてその積み重ねが、自分にも、相手にも、やさしい関わりへとつながっていきます。

支援の質は、スキルだけではなく、こうした “内側の余白” によっても大きく左右されます。

忙しい日々の中だからこそ、ほんの少し立ち止まる時間を、大切にしていきたいものです。

 

それでは今日はこのへんで

アディオス・アミーゴ