【育成担当インタビュー】重度でも地域で “当たり前に暮らせる” ことを目指して

若林佳史さん

SHIPの重度知的障害者の支援部門で『人材育成担当』をしているさんへインタビューしました。

若林さんの想いは「どんなに重い障害があっても地域で当たり前に生活できる」そんな社会を実現することです。

 

 

想いの実現に向けてSHIPでは重度知的障害向けの事業を展開しています。住まいとしてのグループホーム友友セカンド、日中の活動場所としての生活介護 笑笑プラス、という4つの事業所を展開しています。

また、子どもの頃から専門的な療育を提供する場所をつくろうと放課後等デイサービス子笑も開設しました。

ひと昔前の障害者施策は、障害者を大規模な施設に収容して面倒をみるという時代でした。たとえば、精神障害者であれば精神科病院へ措置し、知的障害者は大規模施設へ措置する、という流れでした。

昨今では、精神科病院の退院促進によって精神障害者の地域移行は進んできました。しかし、重度の知的障害者の地域移行は進みません。地域には彼らを受け入れて生活を支えるスキルがないからです。

SHIPの育成担当である若林さんは、重度の知的障害者の地域移行をどのように実現しようとしているのでしょうか。

 

 

【アメリカ・ノースカロライナ州でのTEACCHとの出会い

 

 

--若林さんは自閉症支援の本場であるTEACCHプログラムを学びにアメリカまで行きましたね。まず、ひと言でどんな体験でしたか?

若林:日本とアメリカ、とは言ってもノースカロライナ州だけですが… との大きな違いは『入所施設がない』ということです。日本のように大規模施設に収容するという発想がないということです。

措置から契約へと日本でも制度改革は進んできましたが、いまだに重度は施設収容という社会問題はあります。国では障害者の地域移行を謳ってはいますが、そこに重度の知的障害者が本当に含まれているのかは謎ですね。

 

--では、アメリカ、というかノースカロライナ州では、どのようにしているのですか?

若林:状態が悪くなった場合に一時的に精神科病院を利用するものの、基本は地域で暮らすことが実現できています。ただ、日本とは様々な違いがあるから実現できるとも思います。

たとえば、予算の規模が違いすぎます。日本では福祉サービス事業者に薄く広くお金を配るシステムですが、ノースカロライナ州はノースカロライナ大学のTEACCH部に莫大な研究費をかけています。自閉症支援を州のプロジェクトとして考えているわけですね。まずここに大きな違いがあります。

 

--具体的にはどんなシステムなんでしょうか?

若林:り返しですが、ノースカロライナ州はノースカロライナ大学のTEACCH部に莫大な研究費を投下します。自閉症に関する研究や支援方法の開発をおこない誕生したのが『TEACCHプログラム』です。

また、ノースカロライナ州の中には『TEACCHセンター』となる拠点が地域ごとに設置されています。TEACCHセンターには、TEACCH部でトレーニングを積んだセラピストが常駐し、地域の自閉症をもつ子の親や支援者の教育をおこないます。

このようなシステムにより州全体で一貫したTEACCHモデルを実現しています。一人ひとりのカルテが州で管理されて大人になるまで引き継がれていくようなイメージですからね。すごいですよ。

 

 

--なるほど… 日本では無理そうですね…

若林:東京都が本気を出せばイケそうな気もしますが、まぁムリでしょうね。でも、TEACCHのモデルに近いようなことはSHIPでも実現できるんじゃないかと考えています。たとえば、SHIPの社内に『TEACCHセンター』のような部署をつくることを考えています。そこを拠点とした教育システムを構築し、事業所へのコンサルテーションをおこなうようなイメージです。

 

--なんとなく、今、そんなカタチになっているような気もしますが?

若林:実は、そういうつもりで計画を進めています。ただ、自分ひとりでは難しいので、同じ考えのもとに進んでいけるパートナーを増やしていきたいですね。みんなが同じ考えを共有できれば、ノースカロライナと同じようなTEACCHモデルが広がって、重度の知的障害や自閉症のある人たちが当たり前のように地域で生活することを実現できると思うんです!

 

 

【重度の知的障害者が地域に出られない理由

 

 

--重度の知的障害者の地域移行が進まない理由をあらためて教えてください。

若林:いくつか理由があります。たとえば、障害をもつ子の親教育(ペアレントトレーニング)が日本ではまだ未成熟です。TEACCHセンターでは『親こそ最大の専門家だ!』として、ペアレントトレーニングに力を注いでいます。日本でも少し進んできましたが、とくに重度ではまだまだです。

家で養育が難しくなると行政や福祉サービスを頼ることになるのですが、TEACCHセンターのような拠点はない未成熟な社会なので、必然的に「どこか面倒をみてくれる場所はないか…」「どこでもいいから預かってほしい…」という思考になってしまいます。大規模施設の収容施策は変わらずに継続されてしまいます。

 

施設に入るともう出られません。入所している本人の目線からいうと、そもそも自閉症スペクトラム障害は『イマジネーション障害』がありますので変化はとても苦手です。『地域に移行した生活』なんて想像することができませんから、一度、施設に入所してしまうと出られなくなってしまいます。

みんなの思惑が一致しちゃうんですよね。行政も、親も、本人も、みんな安心という状態になりますので。でも、それを変えていきたいんですよね~、 入所施設の支援出身者としては。

 

 

--施設入所支援で働く人たちは、若林さんと同じ想いの人も多いのでしょうか?

若林:さぁ… どうでしょう… でも、疑問を持っている人もいると思いますよ。そんな人たちと一緒に理想を実現していきたいですね。自分も今のような視覚的支援などのTEACCHプログラムを施設にいたころにできていたらどうだっただろう… と考えるときがあります。地域で重度の知的障害者が暮らせない理由は、残念なことに、地域に受け入れられるスキルがないってことに尽きますので。もう勉強するしかないですね。

地道な取り組みが実を結んでいる部分もあります。たとえば、生活介護の笑や笑プラスは、TEACCHでやっているデイサービスのイメージです。むしろ、対象者はノースカロライナよりも重度の人が多く、活動環境も狭いので、支援について考え工夫することが圧倒的に多いはずです。おこがましいのですが、そういう意味では本場のTEACCHよりも難易度の高いチャレンジをしていると思っています。

 

グループホームはまったく別ものでしたね。敷地面積が違いすぎます。だいたい100倍くらいの違いがあります。敷地の中に農場や牧場がありましたらかね。あれはもはやグループホームではないですね。

そういえば、TEACCHでも、日本でも、障害者の高齢化問題は深刻になってきています。私の将来の夢は、自閉症専用の老人ホームをつくることだったりもします。やっぱり、子供から大人まで、死ぬまでみれることが大切だって思うのです。この夢も実現したいので一緒にやりたい人いないですかね?

 

 

【なによりもまずはアセスメントが大切

 

 

--若林さんが今、もっとも力を入れていることはなんでしょうか?

若林:アセスメントのスキルを平準化することです。体験時・契約前におこなうフォーマルアセスメントを住まいであるグループホームと、活動の場である生活介護で共有することです。本人が得意とするコミュニケーションの取り方を確実に理解することが大切です。

そのためにおこなっているのが、PVT-R(絵画語彙発達検査)TTAP(TEACCHの検査)絵と単語のマッチングテスト(オリジナル検査)、このあたりの検査をおこなうことで、どんな機能を使うと『理解』し合えるかを見立てるのです。

 

--フォーマルアセスメントでは、苦手も見るけれど、強味を探してそれを活用するのですね。

若林:まさに。重度の知的障害のある人を支援していると、言い方は悪いのですが、できない部分ばかり目についてしまいます。できない部分をあげることは素人でもできますので、そこをあえて『できる部分』『できそうな部分』『機能的な部分』を探していくのがポイントです。

そして、人間関係の大前提となるコミュニケーションの問題をなくすことです。健常者がおこなっていた音声言語による会話コミュニケーションをやめて、本人にとってもっとも理解しやすい『絵カード』『写真カード』などを使うことで、突然、この世の中に意味をもつのです。ヒトの期待をはじめて知ることができるのです。

 

 

--もしよかったら、インフォーマルアセスメントのことも教えていただけますか?

若林:インフォーマルはスタッフのスキルによってバラつきが出てしまうので、それを解消するために『フォーマット』を使っています。観察するポイント、評価するポイントは事前に決めておいて、そこへの注目と疑問をみんなで共有できるツールとしています。この取り組みはうまくいっていますね。

フォーマットを共通のアセスメントツールにすることでスタッフ同士のすり合わせがしやすくなりました。これが意見交換のツールとなり、疑問をもつことが、障害特性への興味につながってきました。

 

あと、インフォーマルアセスメントでは『余暇』の観察がかなり大切ですね。自閉症のある人はアイドルタイムが苦手です。この場所で、この時間に、何をすればいいか、自分で判断して行動することが苦手です。だからこそ、自分ひとりで楽しめる余暇をつくる支援はかなり重要となります。

余暇の観察では『感覚面』については、はじめのうちから調べます。具体的には、いろいろなものを試しに使ってもらってその様子を観察します。ボタンを押す・音が鳴る・ふにゃ・とげ・振る・パズル・はめ込むなど、どんな感覚を快・不快と感じるのか? 感覚刺激に偏りのある自閉症の人たちを支援していくうえで欠かせないインフォーマルアセスメントになります。

 

 

【重度の知的障害者支援は “かなり” 面白い

 

 

--重度の知的障害者や自閉症のある人を支援することの魅力を教えてもらえますか?

若林:とにかく難しいことが面白いです。健常者同士でするような言語コミュニケーションはできないので、正直、何を考えているか分からないじゃないですか。それを「どんなことを考えているんだろう」って探っていくことが面白い。さらに、それがかみ合ってくるとなお面白い。「そんなこと考えてたんだぁ~」って具合に。

言いたいことは相手に必ずあるんですよね。けれど、なんだかわからない。たとえば、なんとなく『嫌』なのはわかるけれど、何が『嫌』なのかはわからない。なんてケースはあるあるです。

 

たとえば食事をしている場面。隣りの人のメニューが気になってしまいます。そして、おかずに手を伸ばしてパクッと食べてしまいます。「なにやってるんですかぁ~ ダメですよ~ ヒトのものを食べちゃ!」って注意されることになりますよね。

よ~~く観察をしていると、なぜ、その行動に出たのかが分かってきます。『自分の領域』と『他人の領域』が識別できないからだってことが分かってきます。だから、自分のモノだと思い込んでしまうのです。そして、それにシングルフォーカスして、没頭して、こだわってしまうのです。

 

 

--なるほどぉ… 行動の理由は分かったのですが、ではどのように支援すればいいのですか?

若林:自分の領域(自分の物)だと分かるように、色分けしたり、仕切りをつけたりします。それでピタっとおさまってしまいます。これが、かみ合ってくると面白いという魅力の部分です。

このような面白味はスタッフみんなが感じているところですね。まぁ正直なところ問題は多いのですが、問題があってもスタッフにそれをクリアした経験さえあれば、問題をネガティブに意味づけしなくなってきます。

よ~し!じゃぁ違うカタチに構造化支援を工夫して、今度こそ理解してもらうぞ、」今度こそ気持ちよく過ごしてもらうぞ、といった具合に。それが実際にスタッフの成功体験として積みあがっていきます。クリアできると問題を前向きにとらえることができはじめるので不思議です。

 

 

--でも、行動障害のある人を支援するのは大変ですよね… だれでもできることではないような気がします。

若林:問題行動が発生したときこそフォーマットを使います。『氷山モデル』のツールを使います。これは本当におススメで、表面に見えている問題行動のみをみるのではなく、氷山の下にある『障害特性』『環境要因』を書き出してみるのです。

すると、視覚過敏で眩しすぎたとか、次の見通しが立たずにパニックを起こしたとか、見落としていた部分が見えてきます。

 

不快な刺激を回避するために激しい行動に出ることはしばしばあります。私たちもそうですが、不快な気持ちが強ければ強いほど、それを取り払うために行動も激しくなります。なので『拒否』のコミュニケーション機能をもつことは重度の知的障害者や自閉症のある人を支援するうえで大切なポイントになります。

このように、だれでもアセスメントしやすいように、みるべきポイントをツール化・フォーマット化しておけば、その行動をする根拠が導き出せます。そして、おのずと『根拠ある支援を実践』しようという思考回路に変わっていきます。本気で支援しようと思えば、だれでもできるようになると思います。

 

 

【『学ぶ時間の確保』が SHIP重度事業の最大のテーマ】

 

 

--順調に事業が進んでいるように窺えましたが、なにか課題もあるのでしょうか?

若林:重度の知的障害や自閉症のある人たち・行動障害のある人たちを支援するために、手厚い人員体制のもとたくさんのスタッフが働いてきます。たとえば、グループホームだけでも50人くらいのスタッフが在籍しています。

その全ての指導・育成を私ひとりでおこなうことには無理がありますよね。さらに、経験の少ないスタッフが大半、そして、学ぶ時間が確保できない… 正直、悩みが尽きません。

「研修やろうよ!」「せめてケース会議だけでもやろうよ」と声をかけるものの、現場では日々の業務を回すことで手一杯な状況です。「シフトが組めないからできません」と言われると、どうしたものかと、出口が見えなくなってしまいます。

 

-指導や育成の方向性は決まっているのに、それを実現できないことへの歯がゆさがありそうですね。

若林:まあ、悪循環してしまいますよね。自分が現場にいたときは、自分の裁量でトータルにコーディネートできたので研修の時間をつくることもできました。今は、事務局のスタッフとしてバックアップをするような立場なので、伝えたい・教えたいことはたくさんあるけれど、現場業務が優先ってことになってしまいますので、かなり気を遣って仕事をしているような状況です。

たとえば「業務時間外で勉強会やろう」というのも残業を強要しているようで、時代の流れに合わないですしね。

 

 

--解決策としては、どのような対策を考えておられますか?

若林:根本的な育成システムを見直すことを考えています。

今までは、事務局スタッフから現場職員へ直接研修をおこなっていました。このシステムを採用していると、管理職や中堅職員が研修を受けられなくなり、現場を支える屋台骨が揺らいでしまいます。

 

このような反省を踏まえて、これからは管理職を育成していくという視点に優先順位を切り替えていこうと考えています。事務局スタッフはサービス管理責任者と主任スタッフを育成し、サービス管理責任者と主任スタッフが常勤スタッフを育成し、常勤スタッフが非常勤スタッフを育成する、というシステムへと組織を変遷していく必要性を強く感じています。

とにかく、管理職が支援のスキルを着実に身につけることで好循環モードへと切り替えていきたいですね。

 

 

【常に学び・努力して・成長しようという姿勢】

 

 

 

--どんな人と一緒に働きたいですか? また、経験がなくてもできる仕事でしょうか?

若林:結論からいうと『経験がなくても大丈夫』です。ただし『情熱』は欲しいところです。

たとえば、活躍しているスタッフの例をあげると、身近に障害のある人がいて力になりたいと思った人、高齢福祉から障害福祉の勉強をしたくなってゼロからのチャレンジを目指す人、今の職場に疑問を持っていてイチから学びなおしたい人、自分の理想とする支援をもとめている人、このような人たちはものすごく活躍しています。

現状に疑問を持ち、課題を明確にして、常に学び、努力して、理想を追究していくような人と一緒に働きたいですね。(欲しがりすぎですかね…)

 

欲しがりすぎている理由としては、大変な仕事なので、内発的な動機がないと長続きしないということです。障害福祉なんの興味もなく、ただお給料が良いから、安定しているから、とりあえずやってみるか、といったような動機の人は辞めてしまいますね。

どうせやるなら本気でやってみたい! プロを目指したい! といった意気込みのある人であれば、経験がなくても私たちの育成によってプロの支援者になれると思います。

 

 

--SHIPの『求める人物像』のやつですね。

若林:そうです。『常に学び・努力して・成長しようという姿勢』このような人と一緒に働きたいです。時代が時代なので、残業を強要することはできません。でも、成長している人は、自分の生活の時間を工面して勉強していますよね。

今、国家資格にチャレンジしているスタッフもたくさんいます。私生活を犠牲にしているなぁ… 大丈夫かなぁ… と思う反面、着実に成長していることも事実です。

 

繰り返しになりますが、未経験でも本人次第で、私の知識や経験はすべて伝えていきますし、私の仲間たちもきっと力になってくれると思います。

また、冒頭にも話しましたが、施設入所支援で収容施策に疑問をもっていたり、もっと専門的な支援を学びなおしたいと思っている人には、SHIPへの転職をお勧めします。

「どんなに重い障害があっても地域で当たり前に生活できる」そんな社会を実現する。この志のもとに一緒に働ける人と出会えることを楽しみにしています。

 

 


 

SHIPの本部事務局で『人材育成担当』をしている若林さんの率直な意見を聞くことができました。

SHIPの支援の理念やサービスの質へのこだわりは、若林さんのマインドによるところが大きいのです!

若林さんの熱い気持ちに突き動かされて、一緒に働いていた頃のことを思い出しました。

インタビューのご対応ありがとうございました!