動機づけ面接法 研修インタビュー 『ケース⑧:介護福祉士の谷垣さん』

テレビ番組の構成作家を目指して大阪から上京してきた谷垣さん。

20代でバリバリに仕事をしていた最中、とある番組制作で『日本の元気なご老人』的な企画のインタビューをしていたときのこと。

表面的には元気にみえるご老人たちが、じつは老々介護で悩んでいたり、パートナーが施設に入ってさみしい想いをしていることに驚き、とても感情移入してしまったそうです。

20代後半頃から本格的に福祉の仕事に興味をもち、デイケアで高齢者介護の経験を5年間経たのち、今度は生活介護などで身体・知的障害者支援の経験を4年ほど積み重ねました。

SHIPへは約2年前に入社して、ラファミド八王子で世話人として活躍しているスタッフさんです。精神障害のある人と関わるのは初めてで、戸惑いも多い中、『動機づけ面接法』との出会いが自身の転機になったとのこと。

さっそくインタビューさせていただきました。

 

 

 

<構成作家の仕事から福祉業界への転職>

―――テレビ番組の構成作家って、どんなお仕事なのですか?

 

谷垣:いわゆるADの仕事で上下関係の厳しい業界でした。たとえば、「明日は朝5時集合。よろしく!」と言われたら、基本的には『ノー』と言えない雰囲気がありました。

当時はまだ若かったですし、好きでやっていたので楽しかったですね。忙しさはありましたが、やることさえやってしまえばある程度の休みも取れましたし、友達もみんな独身でよく遊んでいました。オン・オフ切り替えて上手くやっていましたね。

 

 

―――SHIPへの転職のキッカケを教えてください。

 

谷垣:テレビ業界を離れて福祉の世界に入るとき、高齢福祉を5年・障害福祉を5年、合計10年は福祉の仕事をしようと決めていました。

SHIPに入る前までは身体介護がメインの仕事だったので、相談援助の仕事にも興味をもっていました。

途中、放課後等デイサービスや就労継続支援の仕事も経験したのですが、いわゆる相談援助の仕事とはかけ離れていました。

不本意な転勤によって通勤地獄に陥ったり、適性とは違った(パン作りなど)人事異動によって 不器用地獄 & 残業地獄 に陥ったり。

40代をむかえ体力的にも厳しくなってきたことと、まだ子ども小さかったことも重なって、そろそろ働き方を変えようと転職を決意しました。

 

 

 

<はじめての相談援助で「挫折」と「転機」>

―――はじめての相談援助で苦労したことも多かったと聞きましたが、どのような難しさがありましたか?

 

谷垣:精神障害のある人と関わるのは初めてだったので、本当にゼロからのスタートでした。

精神疾患の種類や特性、お薬の内容や支援方法など、覚えることがたくさんあって大変でした。

入社当初、統合失調症の方の陽性症状(幻聴や妄想)を目の当たりにして(ドラマや映画でみた世界が本当に存在するんだ・・・)と、驚いたことを覚えています。

また、利用者さんの中には弁の立つ人も多く、「谷垣さん!この前、〇〇って言ったじゃないですか!(怒)」と詰められることもあって、(これは知識や専門性がないと苦労するな・・・)と、及び腰になっていました。

 

 

―――谷垣さんはとても明るくてコミュニケーション能力が高そうに見えますが、じつは苦労していたのですね。

 

谷垣:昨年末は精神的にヤバい状況にありました。

担当利用者様の生活がうまくいかない原因を、すべて『自分の責任だ・・・』と感じるようになっていました。

たとえば、金銭管理のお手伝いをさせていただくケースでは、事前のお約束では生活必需品を買うはずが、パチンコにお金を使ってしまう。ご飯が食べられない状態になってから相談されてその対応に追われる・・・

たとえば、お薬の自己管理にチャレンジされていたケースでは、徐々に飲み忘れが目立ってきて、症状が再発してその対処に追われる・・・

たとえば、心配性の人のケースでは、不安を打ち消すために色々なところへ電話をかけまくってしまい、今度はブーメランでグループホームに「なにかあったのか?」と確認が入ってきて対応に追われる・・・

このように、何もかもが後手に回っているようで、何から手をつけたらよいか、どうすれば上手く支援できるか、まったく見通しが立ちませんでした。

そして、担当利用者様と毎月実施する振り返り面談では『注意ばかり』をするようになっていました。

隔週でおこなわれるケース会議の報告でも『支援がうまくいっていない』ことばかりを伝える事態に陥っており、『自分はいない方がいいのでは?』『自分には向いていない・・・』。

負の思考と感情にのみ込まれそうになっていました。

 

 

―――それはしんどい状況でしたね・・・ どうやって凌いでいましたか?

 

谷垣:ほんとうにキビシイ状況でした。

SHIPではありがたいことに残業がほとんどないので、早く家に帰って気持ちを切り替えようとしていました。

でも逆に、考える時間だけはメチャクチャあり過ぎたので切り替えが難しかったです。

前職までの『日中活動系』の仕事とは違って、グループホームは生活に密着した24時間サービスになるので、問題の根本を解決しない限りエンドレスでその対応に追われることになります。

家に帰っても「またアレが起こったらどうしよう・・・」と、仕事のことが頭から離れません。

結局、お酒を飲んで感覚をマヒらせるような方法をとっていました。

そんな頃、たまたま事務局の上田さんとお話しする機会があって、悩みをすべて相談させてもらいました。

 

 

―――相談してみてどうでしたか?

 

谷垣:そのときはグループホームでの支援に限界を感じていたので、ダメもとで「異動ができないか?」といった相談もさせてもらいました。

でも上田さんからは、「支援のスキルを身につければ乗り越えられるはず。異動を考えるのはそれからでもいいのでは?」と言われました。

そして、「動機づけ面接法の研修を提供するから、一緒にやってみよう!」と言ってもらったので、もう一度 頑張ってみようと思いました。

そのときに、『アサーション12の権利』も教えてもらいました。 ※アン・ディクソン:第四の生き方 より

とくに印象に残っているのは、『私には「よく分かりません」と言う権利がある』というフレーズです。

テレビ業界にいた頃の上下関係で『ノー』と言えない自分が完成していたようです。このフレーズを知ってからは『自分だけで背負わなくてもいいんだ』と、思い切って本心を伝えることもできるようになってきました。

 

 

 

<『意識』しまくりのロールプレイで『スキルUP』を実感>

―――動機づけ面接法の研修を受けての率直な感想を聴かせてください。

 

谷垣:「こんなに意識して会話したことなかった!」というのが率直な感想です。

今までは雰囲気でコミュニケーションをするタイプで、それが友人や利用者様からも好評でした。

上田さんとのロールプレイでは、質問や傾聴の仕方を意識したり、情報提供をグッと我慢することを意識したりで、頭の中は常にフル回転。とにかく脳みそがメチャクチャ疲れました。

KitKat(チョコレート)ってこんなに美味しいんだ・・・ というほどに、脳ミソが疲れて糖分を欲していました。

考えてみれば、過去の福祉経験ではここまでガッツリ利用者さんと話す機会がありませんでした。表面的には良いコミュニケーションをしていたかもしれませんが、人生の価値観に踏み込む機会はありませんでした。

ですから意識してそこに踏み込んでいくコミュニケーションは、うまく言えないのですが人生観を見直すくらいの衝撃的な体験となりました。

 

 

―――研修の後、毎度のように出される『宿題』も大変だったのではないですか?

谷垣:大変でしたけど、けっこう楽しく取り組めました。

ロールプレイのときから利用者様役を演じたり、自分が支援者役として面接したりする中で、自然と本番想定で考えることができていました。

研修の終わり頃のには「はやく試してみたいな」とも思えるようになっていたので、日ごろの支援でも自然とチャレンジできました。

そして一つひとつのスキルを試すたびに、利用者様からポジティブな反応が返ってくるようになると、支援に面白味を感じるようになっていました。

そういえば、自然と『自分の責任だ・・・』と背負い込まなくなっていましたね。

 

 

谷垣:これはちょっと恥ずかしい話ですが、「もっと具体的に教えてください」などと、キャラ変モードで質問すると、利用者様から「あれ、谷垣さん、どうしちゃったんですか? いつもと違う感じですね?」と突っ込まれたりもしました。

「そんなことないですよ~」と照れかくし(汗)。でも、利用者様の価値観を「心の底から知りたい」とも思っていたので、その真剣さもちゃんと伝わっていたのかなぁと思います。

 

 

 

<『自分の言葉を聞いてそれを信じる!』ということ>

―――研修を受けて、ご自身の中で一番変わったと感じている部分を教えてください。

 

谷垣:やはり質問の仕方』が変わったと思います。

今までは『質問』ということを意識していたような、していなかったような・・・

たとえば、「一番大切なことはなんですか?」とか、「具体的には?」「もっと話して下さい」とか。こういった質問の仕方を意識したことはなかったですね。

そして、人生を振り返ってみると、自分もこんなふうに深く聴かれたことがなかったなぁ・・・と。

ロールプレイの相手役のとき「谷垣さんにとって何が一番大切なことですか?」の言葉を投げかけられ、人生初の質問を受けてうまく答えられなかったことを思い出します。

それでも「もっと詳しく知りたいので、具体的に教えてもらえますか?」と、さらに聴いてもらえるわけです。

こういった体験は、戸惑いもありつつ、なんだか嬉しさもありました。

 

 

谷垣:スキルを試す場面ではちょっとキザなフレーズを使うので、なんというか『恥ずかしさ』や『歯がゆさ』のような感覚が残ります。

でも、受け手の印象は真逆で、なんでも安心して話すことのできる心地よさのような感覚が残ります。

まだ1年未満と付き合いの浅い利用者様にも、ものすごく深い部分までお話しが聴けているのは不思議な感覚でした。

おそらく利用者様自身でもはじめて『一番大切にしている想い』なんてものを言語化しているわけで。

まさに動機づけ面接法によって『自分の言葉を聞いてそれを信じる』体験をしているわけで。

この瞬間が人生を好転させているんだなぁ・・・と、着実に支援の手ごたえをつかむことができるようになりました。

 

 

―――動機づけ面接法のスキルとして、特におススメしたいスキルはどのようなものでしょうか?

 

谷垣:一つに絞るのは難しいのですが、動機づけ面接法の中核の部分を担う『抵抗を手玉に取る』のスキルはおススメしたいです。

今までのわたしの相談って『共感』だけだったんですね。

寄り添っている風で見栄えは良いのですが効果はイマイチで・・・

たとえば怒っている利用者様には、その怒りを共感するだけなので、結果として感情を増長させていただけ。

そして、その増悪した怒りの矛先が他のスタッフにぶつけられているのを傍目に、ほんとうに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 

谷垣:『抵抗を手玉に取る』のスキルを覚えてからは、テンプレ化して毎度のようにお世話になっています。

具体的には、利用者様の訴える不満や抵抗こそ前のめりで積極的に聴きにいく戦略をとります。

一度、すべて吐き出してもらうと、不満や抵抗は空っぽになります。

その後で、穏やかに「一方で、そのようにしていると上手くいかないこともあるような気もしますが・・・」と、矛盾を拡大していきます。

すると今度は利用者様の反応が急激に軟化していくのが分かります。みずから反省の弁を述べながら、建設的な話し合いへと移行していくのです。

このスキルを使うたびに「なんかゲームみたいで面白いなぁ」と、支援に少し余裕を感じられるようになってきました。

 

 

<内発的な動機を引き出せる支援者を目指す>

―――たしかに。ゲーム性とか面白さを感じはじめると、相談援助は楽しくなってきますよね。

 

谷垣:ほんとうにそう思います。昨年末の精神的にヤバかったときとは大違いです。

正直、今までの人生では「そうですよね~」「マジっすか」「すごいっすね~」の3つくらいのコミュニケーションでうまくいっていました。

それが通用しなくなると手立てがまったく無くなるので、いま思い返してみると「それは詰むわなぁ・・・」と思います。

 

谷垣:でも実は最近、別の悩みが出て来まして。

まぁ嬉しい悩みでもあるのですが、利用者様たちから「谷垣さんに話したい」と、ご指名をいただく機会が増えてきました。

でもまた自分のキャパシティーを超えてしまうと、以前のように余裕がなくなってしまいそうで心配です。

ですので、今度はまわりのスタッフの人とも動機づけ面接法のテクニックを共有して『チームで支援』できるようにしていきたいと考えるようになってきました。

 

 

―――ひとつ山を乗り越えたように感じますが、これからはどんな支援者になっていきたいと思いますか?

 

谷垣:あくまでも主役は利用者様なので、自分自身はインタビュー者であることを自覚しつつ、動機づけ面接法のスキルを上手に活用しながら内発的動機を引き出せる支援者になりたいです。

ご本人の中にある価値観をどう引き出すか。ほんとうの動機をいかに引き出せるかにチャレンジしていきたいです。

 

あと、全然関係ない話ですが、私はカッコいいフレーズが大好きなんです!

「自分の言った言葉を信じる傾向がある」

「抵抗を手玉に取る」

「尺度の質問」

こういうフレーズを使っている自分が好きだったりもするので、今後も積極的にアウトプットしながらスキルを定着させていきたいと思います。

 

 

―――では最後に。これから相談援助や動機づけ面接法を学びたいと思っている人へメッセージをお願いします。

 

谷垣:動機づけ面接法には、相談援助に必要なすべての要素が組み込まれていると思います。

研修を受けると、支援の場面ごとにステップアップしている自分を実感できると思います。

すごく楽しいですし自信につながるはずです。

ぜひ、この感覚をみなさんにも味わってもらいたいです!

 

 

 

<『おまけ編』 ~お酒ともうまく付き合えるようになりました~>

―――谷垣さんは、動機づけ面接法の研修中に『断酒』にも成功しましたね。せっかくなので、そのときのことも教えてもらえますか?

 

谷垣:『抵抗を手玉に取る』のテクニックをロールプレイで学んでいたときのことです。

上田さんから「お酒をよく飲まれるそうですね。私もビールとワインが好きなんですけど、谷垣さんは何が好きですか?」と聴かれました。

最初は警戒しながらも「私もビールが大好きです」「あと、ワインもけっこう飲みます。」と答えました。

すると、上田さんから「同じですね!美味しいですよね~!」とノリノリになって返してもらえたので、「そうなんですよ!メチャクチャ美味しいんですよ~」と二人で盛り上がっていました。

 

ひと通りお互いの酒ネタを話し終わった後に、「でも一方で、ついつい飲み過ぎて後悔しちゃうこともありませんか?」と聴かれました。

すると今度は、堰を切ったように『反省の弁』がボロボロと出てしまったのを覚えています。

 

「中途覚醒がひどくて不眠になって・・・」

「飲み過ぎた次の日は二日酔いが酷くて・・・」

「頭が痛くて夕方まで動くことができなくて・・・」

「実は、子どもと遊びに行く約束もブッチしてしまって・・・」

自分で自分の言葉を聞きながら『あぁ、アホらしいな』と気づいたことが止めるキッカケになりました。

 

 

そして最後に、「では、明日からお酒を減らすためにできそうなことはありますか?」と尋ねられたときは、「とりあえずビールは1本だけで止めてみようと思います!」と、自然に宣言していました。

 

結果、あれだけ飲みまくって、飲まれまくっていたのに、今では不思議とほとんど飲んでいません。

それよりも、家族との時間を大切にしたり、少し勉強の時間を増やしてみたりと、生活の幅が広がり充実しています。

たかだか10分程度のロールプレイだったのに生活は激変しました。

もし、「お酒はよくないよ!」とか「やめた方がいいよ!」とお説教されていたら、逆に『止めない理由』しか言っておらず、その言葉を信じて飲み続けていただろうと思います。

 

『抵抗を手玉に取る』とか、

『自分の言った言葉を信じる』とか。

身をもって効能を実感しておりますし、ほんとうに好きなフレーズです。

 


 

谷垣さん

動機づけ面接法の研修に長いこと付き合ってもらいましてありがとうございました。

わたしも谷垣さんとのロールプレイではダイエットの葛藤をたくさん聴いてもらって、現在、なんとか減量に成功しているところです!

さて、スキルはバッチリ身についたと思いますので、今度は広める側として一緒に活躍してもらいたいと思います。

そして、この『動機づけ面接法を広める会』の会員をさらに増やしてもらいたいです。

 

それでは、

アディオス・アミーゴ