現場に還元できる研修をオンラインで!『ADHDの苦しみを理解しよう』後編

SHIPではZoomでのオンライン内部研修を毎月行っています。

『ADHDの特徴と支援方法』についての研修の後半1時間半の内容を

介したいと思います。

前半は「ADHDは性格ではなく症状」で、本人の苦しみを理解することが必要という話でした。後半は「脳機能の何が問題か」「具体的な対処法は何か」という話です。

前半の内容はこちら→現場に還元できる研修をオンラインで!『ADHDの苦しみを理解しよう』前編

 


 

【ADHDでうまく機能していない『実行機能』とは】

 

ADHDをひとことで表現すると『自己コントロール障害』です。

車で表現するとブレーキとハンドルとカーナビがうまく機能しないという状態、いやそれ、事故りまくってやばいですよね。でもまさにADHDの人たちは自分をコントロールできずにぶつかりながら進んでいる状態と言えるのです。

 

 

なぜそうなってしまうかというと、ADHDの人たちは、健常者より『実行機能』がやや弱いと言われています。

脳の前頭葉がつかさどっている「計画を立てていく」「規制的に判断する」といった機能です。

 

研修では、具体的に4つの実行機能と、対象方法の例があげられました。ADHDだとすべて苦手、というわけではなく、人によってばらつきがあるので、どこが特に支援が必要かアセスメントが大切です。

 

 

 

一つめは、主に過去を振り返って未来をイメージする機能です。

健常者は意識しなくてもできるモニタリング(継続的に観察、記録、検討)を、意識してやってもらえる仕組みを考える必要があります。

 

 

二つめは、心の声を聴きTPOに合わせた対応、問題に適切に対処する道筋を組み立てる機能です。

健常者でも、冷静さを欠いているときはパッと思いついたことをすることがありますよね。その状態が常に続いているイメージです。

私たちだと周りの人が止める、何かしら落ち着けるきっかけがあればふみとどまれますよね。

ADHDの場合、その心を使って落ち着くことも苦手です。三つめの機能です。

 

 

落ち着く方法として「6秒待つ」というのがアンガーマネジメントなどでもよく使われますが、目的は「注意をその事柄からそらす」ことなので、本人にあった他の方法でもいいです。

またADHDの方は、外からの刺激に反応しやすく、それがなくなるとやる気がなくなり、何事も続かないということなってしまいます。

突発的なことに飛びついてしまうのは仕方ないですが、それを減らしていくためには、自分の中の軸による「内発的動機づけ」が必要です。

講師の兵働さんからはこんな話も出ました。

兵働「特に軽度知的障害のあると『こういうときにどう行動すればいいかわからない』という利用者様も多いです。行動を学習してもらう、行動のメリットとデメリットを検討できる練習をするといった必要があります。

短期的な利益はイメージできても、中長期的利益を考えることがなかなか難しいので、振り返りなどで少しずつやっていく必要があるでしょう」

物事は、最初は面倒で回りくどく感じるやり方が、長い目で考えると利益が出るなど、短期的と中長期的に見た場合でメリットデメリットが逆なことが多いです。その場では判断が難しいので、別の場所で考える機会を増やすことが大切です。

 

 

四つ目は計画と問題解決を心の中で組み立てる機能で、苦手な方は多いです。

フレームワークといわれる「枠組み」を作ったやり方など、本人の頭の中で考えてもらうより、見える形で一緒にやっていく方が良いでしょう。

難しく考えず、単純に紙とペンで書き出す、というだけでもよく、むしろ分かりやすくてやりやすい方法でしょう。

 

『実行機能』の補助のポイントは以下の3つです。

  • 「見える化」:頭の中だけで考えるのは難しいので、外のツールを使って見える形でやってもらう
  • 「動機づけ」:最初は補助して、徐々に自分で見える化ができるようにする流れが望ましいが、自分で続けていくには内発的動機づけが必要
  • 「アセスメント」機能全部のカバーは難しいので、部分的に取り組むために、どこに課題が大きくて、どこは何とかなりそうか、一人ひとりでの見極めが必要

実行機能が私たちと同じと考えるとこの発想は出ません。ADHDの特性を理解し、さらに一人ひとりに合わせて必要なツールを使った取り組みが必要です。

 

【ADHDの『薬物療法』】

 

障害をカバーするツールのひとつに「薬」もあります。

ADHDは「脳機能の障害」なわけですが、病気ではありません。では薬は効果があるのか?

診断は病院でされますし、通院している人も多いです。支援者としては知っておくべきことのひとつでしょう。病院、家族、行政などとの連携が大切です。

 

ADHDは、血流量が少ないと、覚醒物質ドーパミン、ノルアドレナリンが過剰に出てしまうといったことが研究結果で言われています。それを調整するのが治療薬の効果です。

 

 

 

薬を飲むことで「集中が続く」「ストレスが減った」など効果を感じる人は多いです。

ただ、どんな薬でもそうですが、眠気などの副作用や、薬が切れるとダメになるといったデメリットもあります。

 

 

また、薬はあくまで症状を抑制するもので、薬物療法だけで全てが解決するわけではないのです。

薬で楽になるのは確かなので重要ですが、それにプラスして環境調整、周囲の理解、ご本人の工夫などが必要です。

特にご本人の工夫が一番必要と言えます。そこに取り組むためには、ご本人の自覚、生活スタイルの変化、障害受容が必要なのですが、支援の中では難しい部分でもあります。

 

受講者も正にそこで悩んでいるようです。

受講者「ADHDの利用者様には、こだわりが強い方も多くて、いままでのスタイルを簡単には変えられないという方もいらっしゃいます。変化することが良いと分かってくれればいいのですが、そこまでが本当にむずかしいです」

兵働「急に変えるのは、特にこだわりが強い方は難しいです。変えていくには年単位で考えていってもいいと思います。私たちも、コロナ禍での変化に最初は抵抗があったと思います。このオンライン研修なども、コロナの前は考えてもみなかったことですし。生活の変化に、一年経っても慣れていないと思います。あせらずに長いスパンでちょっとずつ、という意識が必要ですね」

 


研修ではADHDの脳が苦手である機能と、対処法が説明されました。

最後にADHDをコントロールする具体的なテクニックが紹介されましたが、長くなってしまうので、くわしくはまた別で紹介したいと思います。

今回の内容でもくり返されていましたが、テクニックの前に『ご本人の気持ち』が最も必要なことであり、支援者としては一番難しい部分でもあります。

受講者は改めてそこを理解し、今後の支援で具体的にどう取り組んでいくか考えられたのではないかと思います。