パーソナリティ障害のお話し

1月23日(月) 都内で大雪が降りました。
チェーンをはめるのに30分、雪かきに2時間、計2時間半の不毛な時間を過ごした本部事務局の上田です。お蔭で腕がパンパン・腰に激痛を抱えています。
雪国の人、とくにご高齢の人にとっては、大変なご苦労があるのだと改めて考えさせられました。
 
さて、今回は『パーソナリティ障害』についてのお話しをしたいと思います。
世の中でパーソナリティー障害と聞くとネガティブなイメージが強い印象です。私たち支援者の間でも最良のサービスを提供することが難しいという印象があります。
パーソナリティ障害といっても幅が広いので、境界性パーソナリティー障害を中心に解説していきます。

<パーソナリティ障害の種類>
パーソナリティ障害の種類は、3つに大別・10種類に分類されています。
❶ 他人を巻き込むタイプ
・境界性パーソナリティー障害
・自己愛性パーソナリティー障害
・演技性パーソナリティー障害
・反社会性パーソナリティー障害
❷ 自分の世界に浸るタイプ
・シゾイドパーソナリティー障害
・統合失調型パーソナリティー障害
・猜疑性パーソナリティー障害
❸ 他人が中心のタイプ
・回避性パーソナリティー障害
・依存性パーソナリティー障害
・強迫性パーソナリティー障害

<境界性パーソナリティー障害って?>
Borderline Personality Disorder の頭文字をとってBPDと呼ばれています。
(以下、BPDと呼びます)
ボーダーラインなので、何かと何かの境界線上にいるということですが、なんだか分かりますか?
よく勘違いされがちなのは、健常者と障害者の境界線にいるという感覚で「ボーダーの人」みたいに呼ばれることがありますが、これは間違いです。
正解は、『神経症』と『精神病』の境界線にいるという意味でボーダーと呼ばれています。
神経症をひとことで簡単に言うと「不安症」のことです。
精神病もひとことで簡単に言うと「統合失調症」のことです。
BPDの患者さんは、極度の不安を抱える一方、非現実的な思考にとらわれる特徴をあわせ持ちます。
精神的にとても不安定で、とても苦しい思いをされていますし、大なり小なり周りの人たちも影響を受けて苦しい思いをされるケースが多いことが特徴的です。

<もう一本のボーダーラインがありそう…?>
この業界で支援に携わる中で感じることは、BPDは神経症と精神病の以外にも境界線はあるなぁ…ということです。『発達障害』という境界線があると感じています。
例えば、ADHDの衝動性は BPDの衝動性と類似しますし、ASDの独特の注意の向け方や白黒思考も BPDの二極化思考と類似しています。
以前、支援をさせてもらっていたBPDの患者さんからたまたま連絡をもらったとき「上田さん、オレ、アスペルガーだったみたい…」と言われました。クリニックでWAISを受けたらしく、総IQが130と高いのですが、言語性IQと動作性IQの差が30もあったそうです。
確かに、ボキャブラリー豊富で論理的思考もあり、いわゆる正論で論破してくる人でした。一方、感情を伝えることは苦手なようで「なんで分かってくれないんだよ!」と、いつもイライラしていました。知覚統合や処理速度には困難さがあったのだと、今だからこそ分かります。

<BPDの中核症状は “見捨てられ不安” >
これは全てのBPD患者さんに当てはまることではないかも知れませんが、BPDを発症する要因に成育歴が関係していると考えられています。つまり、養育者の影響を受けているということです。
※遺伝的要因も絡み合って発症するので、必ずしも養育環境だけが要因ではありません
例えば、親から「勉強をするように」とても強く躾けられたとします。
本人なりに勉強し、何とか親の期待に応えようと努力します。そして、テストで90点も取ることができました!さっそく親に報告に行きます。
すると、親から「なんで100点が取れないんだ!」と強く怒られます…
世の中に『完璧』なんてものは存在しないのに、日常的に『完璧』を求められたらどうなるでしょう…? このように、何をやっても認められない環境を『不認証環境』と呼びます。
本来であれば、頑張ってきたプロセスや、むしろ勉強ができなくてもOKと、ありのままの本人が認められて然るべきです。でも、常に完璧を求められると「いつか 自分は見捨てられてしまうかもしれない…」と不安になることは必然です。

<BPDの極端な思考>
『子は親の写し鏡』とはよくいったものですが、先ほどの成育環境から鑑みて、価値観が『完璧 と 最悪』の二つしかない考え方へと二極化していくことは必然です。
例えば、BPDの人にとって昨日までは『最高』だった人が、いきなり今日から『最悪』の人になったりするケースはしばしばです。BPDの患者さんが、本人の意にそぐわない対応をされたとき、最悪へと急転直下してしまうのは、この『二極化思考』が要因だと考えられます。※二分法的認知ともいう

<BPDの衝動的行動>
BPDの患者さんにとっての『意にそぐわない対応』をされることは『完全否定』です。
でも、本人にとって『意に沿う対応』をされたら『完璧人間』です。
前者の場合は『敵』として認識されるため、絶望や怒りから自暴自棄になり『困らせ行動』を起します。後者の場合は『味方』として認識されるものの、見捨てられ不安から『しがみつき行動』を起します。
代表的な『困らせ行動』は、口撃・暴力・衝動的行為 または解離性の症状が出る場合もあります。
代表的な『しがみつき行動』は、依存・自傷・自殺企図・対人操作・性的逸脱などがあげられます。
 
ただ、このような二極化思考や不適切行動は、誰にでも経験があると思います。
人間の脳は効率よく記憶するために、あえて極端に結論づけして記憶する側面も大きいのです。
あの人のことは結局ところ『好き or 嫌い』、あの考え方は結局のところ『あり or なし』などと…
このような側面に対しては共感的態度で臨めるのではないでしょうか?

<BPDの人との付き合い方>
BPDの患者さんの根底には「どうせまた見捨てられる」という空虚感や絶望感があります。
ここで、マズローの5段階欲求説でニーズをとらえてみると、やはり『安心安全欲求』のニーズの充足が不可欠です。
表面的には『困らせ行動』や『しがみつき行動』が出ているかもしれませんが、こころの中では『安心安全な人間関係』を求めていることを忘れてはいけません。ただし、時間を守らない、暴言・暴力、自傷・自殺企図など、社会通念の逸脱を許容することは難しいものです…
ですから、お互いに決めたルールは守ったうえで『安心安全』かつ『見捨てない存在』になることが肝心です。いつも変わらない姿勢が、安心安全欲求の充足につながります。

<BPDの治療方法は?>
先ほどの付き合い方を中心に「人は信頼できる存在なんだ」と感じることができて、「自分も相手も完璧じゃなくてもいいんだ」と感じることができたなら、快方へと向かっているでしょう。
また、二極化した思考の修正には、通常であれば、認知行動療法の適用が考えられます。そして、認知行動療法をBPD向けに発展させた療法として注目されているのが『弁証法的行動療法』です。

弁証法とは哲学用語で『物ごとの矛盾や対立を克服し、統一していくことで、より高い次元での統合を図っていく考え方』とされています。
例えば、「完璧に認められたい」と望んだとしても、「完璧には認めてもらえない」という事実があります。このような二極化した思考から抜け出すためには、2つの相反する考え方だけに縛られるのではなく、それを乗り越えるための柔軟な思考や行動を身につける必要がある。という考え方です。
 
弁証法的行動療法でBPDの患者さんが身につけるスキルは大きく4つです。
マインドフルネス・スキル、対人関係保持スキル、感情調節スキル、苦悩耐性スキル。
これらのスキルを獲得できれば、BPDの症状を乗り越える可能性は飛躍的に高まりますが、残念ながら日本でこの療法を受けられる機関は少ないという現状もあります。

<まとめ>
BPDはとても自殺率の高い病気です。自殺企図ケースの56%はBPD患者というデータもあります。
一方、年齢とともに軽快していくというデータもあります。おそらく、様々な局面に対峙するたび、ご自身なりに考え方の修正を図っているのだと推測します。
 
個人的には、現在の自分にはBPDの人へ支援を提供するスキルがないので、今年の春~夏にかけて開催される弁証法的行動療法の研修に参加し、支援を提供できるスキルを身につけたいと考えています。