統合失調症への新たなアプローチ:認知機能リハビリテーション『VCAT-J』とは?
いよいよ夏本番。海やプールに行きたいところですが、
帝京大学にておこなわれた 認知機能リハビリテーションプログラムの『VCAT-J』研修会に行ってまいりました~。
今まで統合失調症の治療のスタンダードは、陽性症状と陰性症状の改善に向けた薬物療法が柱で、それをベースに当事者研究などの心理教育、SSTなどの対人関係トレーニングが援助展開の中心でした。
また地域では、グループホームや就労支援施設などによる『施設支援』が定番であり、私たちも同様に、グループホームや就労継続支援による定番の支援を提供しております。
ただ、「もっと何かできることがあるのでは…?」と、ジレンマを感じていました。
ここ最近、注目されてきた治療・援助の方法として『認知機能リハビリテーション』という方法があります。
これは、統合失調症の症状として一番のネックの残置症状… 『認知機能障害』を改善させることがねらいのアプローチ方法です。
※詳しくは以下で解説します。
私たちSHIPのスタッフ3人で、統合失調症のクライエントへの支援の幅を広げるため、帝京大学まで勉強に行ってまいりました!
※ちなみに参加者のほとんどは病院関係者でした…
では、少しだけ概要を紹介したいと思います。
<VCAT-J とは?>
・Vocational Cognitive Ability Training by Jcores(Jcoresを用いた就労を意識した認知機能リハビリテーションプログラムのこと)
http://vcat-j.jp/
<Jcores とは?>
・Japanese Cognitive Rehabilitation Software(統合失調症の中核的な認知機能障害領域である6つの認知機能領域と総合領域からなる「ゲームソフト」のこと)
<統合失調症の3つの主症状>
統合失調症の『陽性症状』と『陰性症状』は、薬物療法によって症状の改善が見込めるようになってきました。
一方、『認知機能障害』には薬物療法の効果はなく、また、有効な治療・援助方法が開発されていませんでした…
【3つの症状を簡単に解説】
≪陽性症状≫
幻聴(正体不明の声)、妄想(幻聴や不快な気分や思考に対する独特で訂正不能な解釈)、の2つが主症状
≪陰性症状≫
感情(喜怒哀楽)を感じにくくなり、表情・意欲・行動が減少していく症状
≪認知機能障害≫
注意力・集中力・記憶力・理解力・情報処理能力・計画遂行能力・問題解決能力といった脳そのものの能力が低下する症状
<認知機能障害が生活におよぼす影響大>
例えば、私たちの生活課題を、①仕事、②社会生活、③自立生活、④対人関係、に分けるとします。
★陽性症状は3領域に影響する(①仕事、②社会生活、④対人関係)
★陰性症状は2領域に影響する(①仕事、④社会生活)
★認知機能障害は全領域に影響する(①仕事、②社会生活、③自立生活、④対人関係)
※参考:東大DH家族心理教室テキスト
つまり、認知機能の低下が生活に及ぼす影響(生きづらさ)ってのは半端じゃないってことがよ~く分かります。
<認知機能とは?>
ベックの認知療法で有名な『認知』という言葉は「考え方・とらえ方」の癖を指しますが、認知機能リハビリテーションでとりあつかう『認知機能』とは「脳そのものの能力」のことを指します。
Jcoresで取り扱う認知機能は『注意・処理速度・言語性記憶・作業記憶・流暢性・遂行機能』です。
統合失調症のクライエントが、集中力を継続できなかったり、物事の理解が弱かったり、約束ごとを簡単に忘れてしまったりする原因は、まさに「脳そのものの能力」の低下によるところが大きいわけです。
Jcoresでは、コンピューターゲームを操作しながら徐々にレベルを上げて、認知機能「脳そのものの能力」を楽しみながら高めていくことが特徴です。
<支援の組み合わせ方>
Jcoresでゲームをこなして認知機能リハをすれば認知機能は高まります。しかし、それだけのことです。
研修では筋トレに例えて紹介されていました。
筋トレをすれば筋肉はつきます。それだけのことです。
大切なのは、鍛えられた身体で何をするかがポイントですよね!
VCAT-Jも同じ考えです。
高まった認知機能(例えば『記憶力』)を、日常生活や職業生活にどのように活かしていくかがポイントです。
VCAT-J の V は、Vocational(職業)を指しています。
例えば、IPSモデルと組み合わせて仕事の場面に活かす練習をしてみたりするのだそうです。
※IPSモデルとは?
Individual Placement and Support の略称 個別におこなう援助付き雇用モデルのことです。
<仕事をすることの意義>
統合失調症の方の支援をしていて悩むことは、治療や支援のゴールをどこに置くかということです。
今までは、仮に陽性症状や陰性症状が改善しても、認知機能の低下は改善されないため、どうしても失敗の経験が増えてしまいます。
そして、就労移行支援や一般就労が長続きせず、リタイアを繰り返すことがしばしばでした。
失敗体験はネガティブな記憶として再燃します。
連動するように陽性症状も再燃し、入院してしまう… というケースが多いことは周知の事実です。
VCAT-J のような認知機能リハビリテーションプログラムを活用して認知機能そのものが改善すれば、治療や支援に『光』がさしてきます。
本当に光がさします!
やはり『仕事をする』ということそのものがプライドを高めますし、仕事がうまくいっているという感覚は『自己効力感(自信)』をも高めます。
やはり、『QOLの向上』と『働く』ことは、切っても切れない関係なんだと思います。
<どんな疾患に向いてる?>
≪統合失調症≫
エビデンスがあるそうです。(効果サイズは0.45とのこと。かなり有効な手段といえるそうです)
≪気分障害≫
エビデンスがあるそうです。(効果サイズは0.44とのこと。ただし治療介入は、心理社会的リハビリテーションの方が適切かもしれないとのこと)
≪ASD(自閉症スペクトラム障害)≫
エビデンスはないそうです…(残念)
<まとめ>
今回、研修に参加した3人のスタッフでチームを組んで、対象となる利用者様とも目的を共有して、私たちなりに考える『認知機能リハビリテーションプログラム』を近い将来に導入していきたいと考えております。
統合失調症の支援に光がさしてきました!
進捗は随時、お知らせしていきたいと思います!
アディオス・アミーゴ
理事・障害者事業部長
国家資格:公認心理師・精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士
その他:TSM(トラウマセンシティブマインドフルネス)修了・SE™プラクティショナー初級修了・TFTパートナー・ChatGPTエジソン塾1期生・整理収納アドバイザー2級 など
『努力すること』と『環境に助けてもらうこと』のバランスを研究し、自分自身の最適化を目指して精進中