SHIP 事業所見学ツアー『知的障害/自閉症支援のSHIP重度事業を見学しよう!』

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コロナの影響で企画中だった『見学ツアー』を見送ろうか悩んでおりましたが、皆さまのご協力のもと開催することができました。

今回は、SHIPの『重度知的障害/自閉症支援』の事業所を見学にいきました!

 

☆ 生活介護 笑プラス 重度知的障害や自閉症のある人たちの日中における社会参加の促進を目的に、様々な活動をサポートしています。

https://ship-emiplus.com/

 

☆ 共同生活援助 友セカンド 重度知的障害や自閉症のある人たちへ住む場所を提供し、衣・食・住や生活全般のサポートをしています。

https://ship-tomosecond.com/

 

<見学ツアーの目的>

①、SHIPの事業所間の連携を図ること

新規の開設がつづき、SHIPの規模も拡大したため『横のつながり』の不足は法人の課題です。

SHIPの組織体制は、今回見学をする知的障害者/自閉症者の支援がメインの『重度向け事業』と、精神障害者/発達障害の支援がメインの『中軽度向け事業』に大別されるため、縦割り感が出てきました。

でも、両事業ともに『質を高める』ための努力をつづけておりますので、その『良い部分を相互に取りれて刺激し合う』ことがねらいになります。

 

②、バーンアウトやマンネリの防止

毎日が同じことの繰り返しだったり、同じような問題を長いこと抱えているスタッフも多いと思います。

私自身もそうでした。

見学ツアーを通じて、新鮮な刺激や情報と触れ合うことで、問題解決の糸口を発見したり、法人スタッフとしての誇りに触れることができます。

「この支援方法は、自分の担当ケースにも使えそうだな!」

「同期のスタッフが頑張っている。自分も頑張らないと!」

「以前、一緒に働いていた仲間との再会。それだけでも元気をもらえるな!」

といった効果は自然と起こるものです。

 

③、キャリアビジョンを描く

いまや転職したり副業することは、めずらしいことではありません。

ただ、当法人では様々な事業や取り組みをおこなっているため、SHIPに在籍しながらでもたくさんの経験を積むことができます。

SHIPには、グループホームが17ユニット、生活介護が2事業所、放課後等デイサービス、就労継続支援が2事業所、就労移行支援、相談支援事業、移動支援事業。

障害種別でいうと、知的障害(重度~軽度)、発達障害(ASD・ADHD)、精神障害(気分障害・統合失調症・神経症・アディクション・パーソナリティ障害など)

他にも、社会貢献活動として『タスクペディア』や『障害福祉マンガ劇場』など、様々な経験を積むことができます。

自分の働く法人の風土に少しでも触れてもらうことで、キャリア形成のビジョンを描いてもらえたいと考えています。

 

では、ここからは見学の様子を紹介したいと思います。

長くなりますが、最後までお付き合いくださいませ~

 

 

<笑プラスの見学>

はじめに事業所内を案内してもらいました。

案内係は、ヒューマンリソース推進室の若林さんです。

若林さんは、アメリカのノースカロライナへ本場の『TEACCHプログラム』を学びにいったとても熱い支援者です。

そして、この 笑プラス(生活介護事業)では、TEACCHでもおなじみの『構造化支援』に積極的に取り組んでいます。

 

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利用者である重度知的障害のある方々は自閉症も併存していることがしばしばです。

コミュニケーションの手段は言葉によらない場合も多く、その人にあったコミュニケーション・システムを考える必要があります。

それが『構造化支援』のポイントです。

若林さんの説明から『ダブルプロンプト』という聞きなじみのない専門用語が出てきました。

プロンプトとは ‟手がかり” のことですね。

ダブルプロンプトとは、手がかりが2つ提示されているという意味でしょうか・・・

もともと情報処理機能の弱い利用者の皆さまへ、言語指示+絵カード指示、または+文字カード指示… といった具合に「良かれと思って情報を与えすぎることが、逆に利用者さまをパニックに陥れることにもなりかねない」とのこと。

個別の特性に見合ったコミュニケーションを工夫して、スタッフの期待を環境からでも理解できるように支援を組み立てています。

 

見学の後は、フォーマル・アセスメントのミニ研修 を受講しました。

①、PVT-R(絵画語い発達検査):言葉の理解度のアセスメント

②、TTAP(TEACCH Transition Assesment Profile)の一部:言語指示と文字カード指示の理解度のアセスメント

③、スタッフ志村さんオリジナル検査:絵カードの理解度のアセスメント

契約前の体験利用時にこのような検査をおこないながら、どんなコミュニケーション手段が利用者さまにとって有効なのかを確認します。

若林さんより、アセスメントの必要性について、分かりやすく解説してもらいました。

「正直なところ、重度の知的障害や自閉症のある人たちの『マイナスの面』をあげろと言われれば、いくらでもあげられます。これは、素人でもあげられます」

「アセスメントは『プラスの面』を探すことです。『機能的な面』を探すこと、『活用できるスキル』を探すこと、専門職だからアセスメントが必要なんです」

とのこと。

『プラスの部分を探しに行くことがアセスメント』

すご~く納得です。

 

当日の若林さんによる『構造化支援』のレクチャーの様子を少しだけ動画で紹介します。

もう一つ動画を紹介します。

 

今回はコロナ禍の影響で、利用者さまとの直接支援体験はおこないませんでした。

今度の見学ツアーでは、実践も通して体験したいですね。

 

 

<友セカンドの見学>

友セカンド(グループホーム)も事業所の案内からスタートです。

案内係は、サービス管理責任者の妹尾(せのお)さんです。

事前の段取りを丁寧にしてくださり本当にありがとうございました!(遅刻してごめんなさい)

友セカンドでも『構造化支援』に積極的に取り組んでおられました。

先ほどの笑プラスの『作業の構造化』とはちょっと違って、『生活の構造化』が中心です。

生活面の期待を環境から伝えて理解をうながす『構造化支援』です。

 

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例えば、朝の起床から送り出し までの『スケジュール』 はこんな感じです。

なにを期待されていて、今、どこに、注目すればよいか、視覚的に期待が提示されています。

また、どこまでおこなえば終わるのか、これも大切なポイントです。

(TEACCHでは『スケジュール』は 上から下へと流れるものと定義づけています)

このような視覚的な指示について、利用者の皆さまは、最初のうちは関心を示さないことが多いそうです。

でも、このスケジュールによってパニックが減り、先が予測できることを実感すると、視覚的な指示への関心も高まってくるそうです。

 

何度もお伝えしますが、

『期待されていることの意味を理解する』ことや、

『終わりが明確に示されている』ことの心理的な安全性については、支援の柱にしないといけませんね。

マズローの5段階欲求説を想いましました。

※『安心安全欲求』が満たされないと、次の『所属欲求』や『承認欲求』のステージには上がれませんからね。

 

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自閉症のある人たちは変化にとても脆弱です。

それは、イマジネーション障害によるものです。次から次へと変わっていくことへの想像が追いつかないためです。

一方、一定のパターンやルーティンはとても得意です。

でも、ルーティンばかりに固執しては生活が成り立ちません。

こだわりが強く出すぎると、社会生活が制限されてしまいます。

そこで、ルーティンの中に、期待する変化を『1つだけ』視覚的に提示してみます。(上の黄色の部分)

このように、最小限の変化を上手に提示することで、『変化への馴化』『成功体験』を積んでもらうことも大切な自立支援となります。

※馴化とは:『慣れ』のこと。

 

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他にも、視覚的に、注目しやすく、期待を示すような工夫が様々ありました。

☆ 立ち入り禁止のエリアには赤のテープを貼って注意喚起。

☆ 食事はパーティションで仕切りをつけて落ち着いて食べられる環境へ。

☆ 布団をたたみ置く位置にはテープで枠をつける。

自閉症の人たちは『秩序立っていることが好き』という特徴があります。

秩序を共有することさえできれば、あとはそれを守ることは大好きですからね。

☆ 床に頭を打ちつけてしまう利用者さまもいらっしゃいます。タイルカーペットで安全性を確保することも…

 

最後に、スタッフの永田さんより、1年を通しての 挫折と成功のプレゼンテーション を聞くことができました!

結論から言うと、めちゃくちゃ感動しました。

 

 

<事例紹介>

ある利用者さまの課題は『服を着ないこと』です。

入居後、1週間はとくに問題もなく過ごしていたそうです。

1週間を過ぎると、徐々に服を着なくなったそうです。

この利用者さまのスケジュールですが、日中は生活介護へ通所する予定が入っています。

でも、服を着てくださらないので、朝の送迎車に乗ることができません…

 

無理矢理に着させるわけにもいかず、着衣の促しはするものの、根負けし、本人任せになっていたとのこと。

1ヶ月もすると、頑なに着衣を拒否

「このままではマズい」と、スタッフも何とか着てもらおうと必死にアプローチします。

すると、激しい頭突きをお見舞いされることも…

 

そんなこんなの攻防の末、

一応は、穏やかになる日も増え、外出時には服を着てくださるようになったとのことです。

しかしながら、基本、グループホーム内では全裸でいることが日常化していたそうです。

 

近隣の方からの苦情も入りました…

『もう、友セカンドでは難しいのかもしれない… 』 と、正直、諦めそうにもなりました。

 

そこで、改めて、当初のアセスメントの結果を振り返ることにしたそうです。

アセスメントの結果をみながら、自身の日頃の観察記録も振り返ったそうです。

見立てと実践をつなげる作業です。

そして、気づいたこと。

やはり『ご本人の特徴に こちらが合わせる』ことが大切ということ。

こちらの都合に合わせようとしても難しいということ。

 

『ご本人の気に入るお部屋ってなんだろう?』を、これを機会に真剣に考えてみたそうです。

この時、年末年始を迎え、当該利用者さまが実家へ5日間帰省することになりました。

 

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このタイミングをチャンスととらえ『お部屋の構造化』にチャレンジしてみようと考えたそうです。

少しでもご本人の気に入るお部屋へと環境調整のスタートです。

※自閉症の人は、変化への脆弱さはあるものの、全てが変わった場合には『リセット』されるということもあるのだそうです。

 

永田さんが考えた『構造化支援』のポイントは6つ(上の写真を参照)

① お部屋の『引っ越し』をする → 記憶とこだわりをリセットする

② お部屋の中に『居場所』をつくる → タイルカーペットの真ん中の座る場所はくつろげる場所

③ お部屋の居場所までの『導線』をつくる → ボールの『水色』と、箱の『水色』のマッチングで誘導

④ お部屋の色を『水色』にする(自分の居場所) → 天井に『水色』の養生テープを貼る

⑤ お部屋を出たら『服』・お部屋の中は『裸』 → ドアに写真カードを貼って明確化する(裸でもいい場所を確保)

⑥ お部屋の壁に翌朝の服をかけておく → 『お布団が好き』を活かして、お布団と一緒に『服』をお渡しする

 

実家から帰省されて、はたしてどうなったのでしょうか…?

結果、みごとに新しいお部屋に適応されたそうです。

そして、服も問題なく着て過ごされるようになったとのことです。

本当によかったです!

 

最後に、永田さんからのコメントで、

「この1年で一番 勉強になったことは『環境が行動を変える』ということです」

また、支援のアイデアは、笑プラスからの情報も大変貴重だったとのこと。

「日中活動先である笑プラスとの連携がすごく役立ちました」とおっしゃっていました。

 

アセスメントのポイントは?の質問には、

「アセスメントというと難しくなってしまいますが、よ~く観ることはとても大切だと思います」

「そして、いつもと違う行動はメモ。言葉がない人たちだからこそ観る。情報を集めることです」

 

他にも気づきは?

「重度の知的障害の人・自閉症の人、と、ひと言ではまとめきれません。一人ひとり違いすぎますから」

「おそらく、障害の特性と相まって、その人の生きてきた歴史があるからだと思います」

「今回の事例は うまくいきましたが、今でも本人の気持ちは分かりません。でも、分からないままでも良いと思います」

「ただし、環境を本人へ合わせていくことだけは諦めずに支援したいです」

 

本当に濃密な時間を過ごされてきたんだなぁ… と、プレゼンを聞きながら感動してしまいました!

永田さん 本当にありがとうございました!

 

 

<見学ツアー参加者へのインタビュー>

参加者のうち、就労継続支援B型の主任のスタッフさんへインタビューしました。

Q:参加してみてどうでしたか?

A:めちゃくちゃ良かったです!

Q:何が良かったのか、教えてください。

A:知識と実践がつながったことです。

Q:具体的には?

A:たとえばスケジュールを作成するとき、『文字カード』や『絵カード』を使った方がよいことを理屈としては分かっていました。ただ、インフォーマルなアセスメントを実施することで、本当にご本人に合った情報提示の手段が何なのかを理解することができました。

Q:ご自身の事業所でも試してみたことはありますか?

A:さっそく担当の利用者さまへTTAPによるインフォーマル・アセスメントを自分なりにおこないました。口頭の指示・文字カードの指示・絵カードの指示・写真カードの指示、4つの指示をして評価しました。

Q:どのような評価になりましたか?

A:その利用者さまは、すべて『合格』という評価になりました。ただ、「どれが一番分かりやすかったですか?」と質問したところ、迷わず『写真カード』を選ばれたのです。

Q:迷わず選ばれたのは驚きですね。

A:即答されたのでビックリしました。それほどに『写真』が分かりやすいんだと。さっそく、写真カードを使ったスケジュールをつくることをお約束しました。

Q:本当に知識と実践がつながっていますね。最後に、他のスタッフの人たちにも見学ツアーの参加はおススメしたいですか?

A:めちゃくちゃおススメしたいです。本当にためになりました。ありがとうございました!

 

このような感想を持たれたそうです。

SHIPでは座学ベースの研修は多いのですが、実践による成功体験は不足していると思います。

現場交流をおこなうことで、知識と実践がつながる感覚を持てることはすごく大切なことですよね。

ぜひ、他のスタッフの皆さんにも見学ツアーにご参加いただきたいと思います。

 

それでは、アディオス・アミーゴ