【SHIPインタビュアーの声】現場のエピソードに感じる「障害者支援」に本当に大切なこと

職員インタビュー担当のひとり、中山朝香です。

SHIPの前身であるSSSが初めて障害者向けのグループホーム(ラファミド八王子)を開設したときからのスタッフです。

現在は直接支援の場ではなく、「障害福祉マンガ劇場」「パープルカフェ」による社会貢献活動をはじめ、この職員インタビューを担当するなどSHIPの広報活動も担当しています。

 

今回は、最近のインタビュー記事に書ききれなかった具体的な支援のエピソードの紹介と、そこから思うことを書きたいと思います。

 

 エピソード①、数十年ぶりに生活のアップデート

サクレ江戸川の世話人、徳広さんの仕事のやりがいは「利用者様の新しいチャレンジに寄り添い、その達成をいっしょに喜べること」だそうです。

具体的にはどんなチャレンジがあったかと聞くと「何十年ぶりかにテレビゲームがしたい」という話が上がりました。

サクレには日常生活の自立度が高く、もう10年ほど入居されており生活が安定している方もいますが、その方と面談していたときに言われたそうです。

 

そこでまず、今はどんなゲーム機があるか情報提供をしました。

次に購入ですが、店員さんとのやり取りも緊張されるだろうから、電気屋さんへの同行が必要かと考えていたところで、ご本人から「実は自分で買ってきました」と報告をもらったそうです。

その後、むずかしい機械のセットをいっしょに行い、利用者様は無事、何10年かぶりにゲームをすることができました。「今のゲームはこんなに進化しているんですね、目が疲れます」と感想をもらったそうです。

 

 

 

「障害者の生活支援」「生活の質の向上」と聞いて、具体的に新しいゲーム機を買う、というのは、現場の職員に聞いてみないとなかなか想像つかない話ではないでしょうか。

「支援」というと、問題を解決する、困っていることを助ける、というイメージが強く、実際に、そちらが優先されるとは思います。

日常生活の自立度が高い利用者様だと、生活が安定というか一定なまま5年、10年と過ごしている方もいらっしゃいます。

困っているようにも見えないし、でも生活の変化は苦手という場合も多いこともあります。その現状を見直して、あえて変化を起こして生活の質を向上していく支援というのは見落としがちになるかと思います。

 

世の中は変化していますし、気になることや やってみたいけど どうしたらいいか分からないこと などを、利用者様からくわしく聞いて、引き出していくことは大切な支援だと言えるでしょう。

今回、そういった利用者様の生活のアップデートに関われたことがごくうれしかったそうです。

新入社員の頃はなかなか心を開いてくれなかったその利用者様に頼ってもらえたこともうれしくて心に残ったのだそうです。

 

【職員インタビュー】初めての福祉の世界で、自分の人生も楽しいものに変わった「サクレ江戸川」徳広さん

 

 

エピソード②、「失踪癖」は 実は失踪ではなかった?!

サクレ江戸川サービス管理責任者、小林さん「利用者様のできそうで できなかったことが できた!」というプロセスが、はっきり見えるところがやりがいと仰っていました。

具体的にひとつあげてくれたのが「失踪癖がある」という利用者様が体験入居したときの話です。

他のグループホームでは何ヶ所も入居を断られてしまった方です。

 

まずは一度、見学と体験利用をしてもらい、サクレ江戸川への順応度合を見せてもらうことになりました。

まず体験開始から3時間後に、消えてしまい、職員みんなで青ざめてしまったそうです・・・。

お部屋にご案内して、館内の説明をしようとしたら本人がどこ探してもいない。すぐ警察連絡に連絡して、9時間後の夜中の12時くらいに「保護している」と警察から連絡をもらったそうです。

 

小林さんが迎えに行き、夜勤者へ引き継ぎをして一安心と思いきや、翌朝もいなくなってしまったのです。

そこで「なぜいなくなってしまうのか」を探ることになりました。

しかし、その方は過去に受けたイジメの影響でうまく言葉が出ず、事情を聞き取ることがとても困難でした。

そこで小林さんは諦めるのではなく、コミック会話などの視覚的な資料で確認してみたところ、実は逃げているではなく、「喫煙所へ行ったあと部屋に戻ろうとしたら迷ってしまった」ということが分かってきました。

 

 

先天的なものなのか他に原因があるかは分かりませんが、上下左右がわからない、見方が分からないようで、空間無視の症状か、空間認識が困難らしいということ、それによる行動のパターンが丁寧に聴き取ることでで見えてきました。

なんとか2泊3日の体験利用が終わりました。この間の行動特性や事前にもらっていた情報に基づいて、もう一度、支援の提供方法を検討しました。

(ちなみに体験の後、その方がお住いの地域の福祉課主催のイベントでもその方がいなくなってしまい、みんなで市内を捜索する大騒動になってしまったそうです・・・)

 

そしていざ2か月後、サクレ江戸川の2回目の体験利用にチャレンジです。

2回目はお部屋から喫煙所への床や地面など、さまざまなところに矢印などの目印をつけ、お部屋に戻れるように準備しました。

その誘導に沿ってお部屋に戻ることができました!

 

(⇩くわしいくはこちらのブログをご覧ください⇩)

『おぎなえば』できるし!

 

コミュニケーションが困難なため、ご本人もそれが伝えられず、支援者側も理解できず、今まで何箇所ものグループホームに入居NGを出されてしまったのでしょう。

しかし、「むずかしい」ことではありますが、決して「できない」ことではありません。

 

その後、失踪癖は実は戻れない症状が原因だった方は、サクレ江戸川へ正式に入居し、すでに半年以上が経っているそうです。

ご本人が上手く伝えらえないことも、支援者側がいろんな角度からトライ&エラーでやり取りすることで、双方向での理解につながったという事例でした。

小林さんは、今、その人がその人らしい生活ができていることに、やりがいを感じているのだそうです。

 

 

障害者は「ひとりの人間」

支援現場のお話を聞いてあらためて考えさせられることは、障害の前に、一人ひとりちがう人間だということです。

「できない」ように見えても、「やったことがないからできない」「やり方が合わないからできない」ことが多いのです。

また、他の人より得意なこともたくさんあるのです。それは考えてみれば当たり前なのですが。

 

たとえば、ラファミド八王子で支援させていただいた利用者様の中には、普段は無愛想でもテレビが具合がわるいときは率先して手伝ってもらえたり、就労継続支援の手先を使う作業は苦手でも、販売の場面ではお客様とのやり取りを率先してされている方がいらっしゃいました。

 

他にも、入居してからずっと無愛想で挨拶もろくにしない方がいましたが、挨拶ができないわけではなかったです。実は、アパートの大家さんにはちゃんと挨拶していたことを知りました。

「この人はできない人」とレッテルを貼って接するのと、「本来はできるはずだ」と考えて接するのではまったく違います。その方とは久しぶりに電話で話す機会がありましたが、本当に明るく快活になっていました。

 

自分自身もそうでしたが、SHIPの職員たちにインタビューすると「関わってみて、普通の人間なんだと気づいた」「偏見に気づいた」と話す人はとても多いです。

 

【SHIPインタビュアーの声】職員の言葉に感じる「変わらない挑戦する姿勢」と「築いてきた土台」

 

 

障害の支援者としても、当時者としても

また、自分はてんかんの当事者としても、逆に「てんかんだからできないでしょ」と決めつけられる立場でもあります。

実際には一人ひとり原因も症状もちがうのですが、世の中の認識は「気を失って倒れる病気」に留まっていることが多く、本人の実際の障害を理解してもらう前に「てんかん」だからという理由だけで、就労や賃貸契約や結婚などを断られる、ということが少なくないのです。

 

わたしも障害のある人たちが日常生活を送れるように支援してきましたが、日常を送れなくなっている要因は、本人の側だけでなく、社会の認識にもあるのだとあらためて考えさせられました。

 

 

ちなみにラファミド八王子では、てんかんであることは最初から受け入れられ、発作が起きても特別な目で見られることはなく、他の職員と同じように仕事を評価してもらえ、障害者雇用でも給与は一般雇用と変わりませんでした。

とくに、人事考課の「体調管理」の項目では、健康への取り組みをてんかんの発作とは分けて評価してもらえたのは大きかったです。

毎日の治療・体調管理をしていても、どうしても起きてしまう発作はあります。仕方ないと分かっていても、どうしても周りに迷惑をかけてしまっていると思い自己評価が低くなっていました。

上司たちに「ちゃんと体調管理をできている」と評価してもらえたことで、自分への過小評価に気づかせてもらうことができました。

 

個人をしっかりと見ること、「できないこと」だけでなく「できること」「できそうなこと」をちゃんと見ることは障害者支援において大切なことだと、支援者・当事者として実感してきました。

SHIPの支援現場ではそれを実践し続けてほしい、そして社会にも広まってほしいと思います。

わたしは職員インタビューを通して、世の中に発信していきたいと思います。