Zoomを使った『事例検討会』にチャレンジしました!
下半期からいくつか実験的に試している研修のひとつ『ZOOMを使った事例検討会』を開催しました。
コロナ禍による困難をポジティブにとらえ直しています。
ZOOMを使えば、①移動時間が不要、②事業所間で連携しやすい、③話し合いを構造化しやすい、といったメリットがあります。
①、移動時間
今回の参加者の移動時間を計算してみると、(2時間×2人)+(1.5時間×4人)= 合計10時間もロスを防ぐことができました!
また、移動に係る交通費も経費なわけなので、本当に費用対効果が高いですね。
②、事業所間で連携しやすい
今回の参加者は、江戸川のグループホーム、江戸川の就労継続支援、立川の就労移行支援、のスタッフが集まりました。
時空を超えたすごい速さで顔見知りになってしまうのって、改めてスゴイ時代だなぁ…と感じます。
③、話し合いを構造化しやすい
今回は、Microsoftホワイトボードというアプリを使い、事前に『事例検討用フォーマット』を作成して研修に臨みました。
思考フレームをあらかじめ見える化すると議論が脱線することなく進みます。フレームワークの重要性にも気づかされますね。
さて、ここから事例検討会の目的や進行方法について少し紹介いたします。
<事例検討会の目的>
私は、事例検討会とは、みんなで気づきを得ながら支援の方向性をつくり上げる作業だと考えます。
・参加者の全員がもつクライエントの情報を余すことなく共有する。
・参加者の全員がもつ知識と経験を余すことなく共有する。
・生物学的な側面、社会的な側面、心理的な側面、ストレングスの側面、色々な角度から参加者全員で意見を共有する。
このような事例検討の作業を経て、参加者は気づきをたくさんもらいながら支援現場に戻っていくというイメージです。
なんとなくですが、支援者たちがガソリンスタンドで給油するみたいなものだと思ってます。
<事例検討会の方法>
①、時間の設定
いくらあっても足りないのですが、私の事例検討は2時間半に設定しています。
SHIPでは勤務時間内に事例検討会を開催するので、あまり長い時間をとることができません。
2時間半で支援が好転するのであれば、現場の協力も得られるだろうとの考えでこの時間に設定しています。
②、知識と情報のレベルを合わせる
私がファシリテーターを務めるときは、参加者の知識と情報のレベルを合わせることに注力します。
経験年数の一番浅い人に対して、参加者の先輩からアドバイスを送ってもらうように設計します。
このように進行すると、先輩はアウトプットすることで知識と経験をつなげ、経験の浅いスタッフは現場で聞けなかったことをインプットできるのです。
③、基本情報の共有
基本情報:氏名(匿名で)、年齢、性別、病気、障害、治療方針、処方内容、現在の精神状態、障害支援区分、障害者手帳の種類と等級、収支状況、利用している支援サービス、ジェノグラム、エコマップ
事例提供者へ上記の情報をヒアリングして基本情報の共有を図るのですが、実はこの作業だけでも1時間ほどかかります。
たとえば、病名が『統合失調症』の場合、それに関する知識レベルはかなり違います。
よって、先輩方に「統合失調症の特徴を簡単に教えてください」とお願いして説明してもらい、今度は経験の浅いスタッフへ「もっと聞きたいことはありますか?」と振りながら進めていきます。
統合失調症の治療方針についても先輩方に「一般的な治療の方針を教えてください」、その後に経験の浅いスタッフへ「もっと聞きたいことはありますか?」と振りながら進めていきます。
薬の内容も同じように先輩方へ「リスペリドンとはどのような薬ですか?」、その後に経験の浅いスタッフへ「もっと聞きたいことはありますか?」という流れです。
このようなプロセスを経て、基本的な知識と情報が共有されていきます。
④、生育歴・学歴・職歴・病歴・治療歴の共有
full story を理解することは、クライエントの人格の形成、認知・行動特性を理解するのにとても役立ちます。
事例提供者から幼少期のエピソードを聞きながら、基本情報のジェノグラムと照らし合わせて親からの影響を考察します。
学齢期のエピソードを聞きながら、教育関係・友人関係など、一般教養レベルや社会性・興味関心の広がり度合いを考察します。
思春期にはアイデンティティが確立しますが、その頃の人格はどのように形成されたのか、またはされていなかったか。
成人前期の進学の状況はどうだったか、学業の他にも熱中することはあったか、親子関係、友人関係、異性関係はどうだったか。
職歴では、どのような職種に、どのような経緯で、どれくらいの期間、勤めていたか。どのような経験やスキルを得たか。
病気の発症や治療の経過はどうだったか。障害に対する自己の理解や周囲の理解はどうだっかか。サポートする人たちはどうだったか。
各発達ステージでの挫折や教訓はどのようなものであったか。コーピングのスキルはどのようなものがあったか。
どのような人生をたどって、いま、私たちの支援機関のサービスを利用しているのか。
バイステックの7原則でいうところの『個別化の原則』は、ここまでやらないと個人として理解できないものです。
この作業に45分ほどかけますので、ここまでで1時間45分が経過しています。残り時間がなくなってかなり焦って来ます。
⑤、現在の課題
事例検討会の冒頭に『課題』を聞くこともできますし、このタイミングで『課題』を聞くこともできます。
冒頭に聞くと支援者の困り感を早期に把握できます。また、このタイミングまでのばすとクライエントの人物像をフラットにとらえることができます。
課題をみんなで共有した後、先ほどまでのエピソードから推察できたクライエントの認知・行動特性をまとめていきます。
また、コーピングスキルについてもまとめていきます。適応的なものもあれば、不適応的なものもあります。
クライエントは、自分を守るために様々な戦略をとっているものです。
この作業は、15分程度を要します。2時間が経過しました。さあ、時間がありません。
⑥、ストレングス
ここまでの話し合いの中で『強み』として捉えられた部分を、みんなで出して出して出し尽くしていきます。
本人そのものの強みはもちろんのこと、本人をとりまく環境も強みとして捉えていきます。
参加者それぞれ着眼点が違うため「なるほどぉ 確かにそういう強みもあるよなぁ」ととらえ方をリフレーミングいきます。
いつも思うのですが、ストレングスモデルを考察している時が、一番、支援観の拡がりを感じます。
なんといってもクライエント本人の人生なんだから、本人が自分自身の強みを最大限発揮して主体的に生きて欲しいですよね。
この作業は15分程度です。順番に4~5周をまわして吸い上げます。2時間15分が経過しました。残り15分です。
⑦、まとめ(これからの支援目標と支援方針)
ここまでで所要時間は2時間15分。あと15分でまとめの作業になります。
ファシリテーターは時間がなくて焦るのですが、ここまでのポイントを5分程度でまとめて解説します。
書いてあることをそのまま読み上げる程度です。
そして最後に、参加者全員が感じた『気づき』を報告してもらいます。
今後、どのような目標を立てて、どのように支援をしていきたいか、みんな自然と報告をしてくれるものです。
『支援に正解はない』とは言いますが、ここでの気づきを各々が現場に持ち帰って、クライエントとともに前に進んでいくことを祈るのみです。
これで2時間半が終了です。(少しオーバーしてしまいますが…)
さいごに
スーパービジョンには色々な方法がありますが、私は、この事例検討会の方式が大好きです。
理由は、『みんなで力を出し合い』ながら、どんどん支援に光が射して来るような気がするからです。
この感覚は、SHIPの法人理念と通ずる部分が多いので、あらためて『理念』を振り返っておきます。
Mission ―使命―
わたし達は、みんなで幸せになる社会創りを使命とします。
地域の社会問題と真摯に向き合い、その解決を目指します。そして、一人ひとりのニーズとデマンドを追究し、みんなが力を出し合い、みんなで幸せになる社会創りを使命とします。
Challenge ―挑戦―
わたし達は、挑戦者です。
使命を全うするために、今ある常識にとらわれず考え、リスクを恐れず突き進み、情熱をもって新たなスタンダードを創り続けます。
Value ―価値―
わたし達には、揺るぎない価値基準があります。
使命を全うするために、サービスの質、量、継続性を追究し、みんなが納得する成果を価値基準とします。
事例検討会。ピア・スーパービジョンとしてウチの組織内で勝手に開催されるようになるとうれしいなぁ。
それでは、また。
アディオス・アミーゴ
理事・障害者事業部長
国家資格:公認心理師・精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士
その他:TSM(トラウマセンシティブマインドフルネス)修了・SE™プラクティショナー初級修了・TFTパートナー・ChatGPTエジソン塾1期生・整理収納アドバイザー2級 など
『努力すること』と『環境に助けてもらうこと』のバランスを研究し、自分自身の最適化を目指して精進中