「四無量心(しむりょうしん)」を育てるコンパッションの実践
人を支える仕事や、人に関わる活動をしていると、ふと「私は本当にこれでいいのかな?」と不安になること、ありませんか?
相手を大切に思えば思うほど、自分を後回しにしてしまい、気づけば疲れ切っている・・・
そんな経験をした方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、仏教に伝わる「四無量心(しむりょうしん)」という心のあり方をヒントに、支援者として自分の心を守りながら、相手への思いやりも広げていく方法を考えてみたいと思います。
クリスマスイブに、あえて仏教の話しをすることをお許しください。
セルフコンパッションと四無量心
近年、「セルフコンパッション(自分への思いやり)」という言葉を耳にすることが増えました。
しかし、「自分にやさしくすること」と言われても、どうやって実践すればよいのか、
ピンとこない方も多いのではないでしょうか。
そんなときにヒントになるのが、仏教に伝わる「四無量心」という教えです。
これは、支援の仕事だけでなく、日常生活の中でも「自分も相手も大切にする心」を育てる方法として役立ちます。

四無量心とは?
四無量心とは、「慈(じ)」「悲(ひ)」「喜(き)」「捨(しゃ)」という四つの心を限りなく広げていくことを指します。
慈(じ):相手の幸せを願う心
悲(ひ):相手の苦しみを和らげたいと思う心
喜(き):相手の喜びを一緒に喜ぶ心(随喜:ずいき)
捨(しゃ):偏りなく、誰に対しても平等に思いやる心(平静)
この四つの心はバランスを取りながら、互いに支え合っています。
たとえば「慈」と「悲」だけに偏ると、自分が疲れ果ててしまうことがあります。
そこに「喜」と「捨」が加わることで、心が穏やかに保たれ、支援を長く続ける力になります。

支援の仕事を長く続けるための四無量心
人を支える仕事では、「相手のために」と頑張りすぎて、自分の心や体を置き去りにしてしまうことがあります。
その結果、疲れ果ててしまったり、燃え尽きてしまったりする人も少なくありません。
四無量心を育てていくと、そんな悪循環を防ぎやすくなります。
慈を持つと、「自分も幸せでいいんだ」と思える。
悲を持つと、相手だけでなく自分のつらさにもやさしくなれる。
喜を持つと、相手の小さな変化を一緒に喜び、自分も元気をもらえる。
捨を持つと、結果をコントロールしようとせず、落ち着いて関われる。
つまり、四無量心は「支える自分を守りながら、相手も大切にする」ための心の姿勢を育ててくれるのです。

日常でできるトレーニング方法
難しいことをしなくても、日常の中で少し意識するだけで、四無量心は育てられます。
短時間でも効果があることが、心理学やマインドフルネス研究でも示されています。BL Fredrickson (2008)
① 呼吸に意識を向けて落ち着く
静かに座り、呼吸に意識を向けてみます。
まずは1〜3分で大丈夫。落ち着いた心が、思いやりの出発点になります。
(※MBCTの3分間呼吸法など、短時間の瞑想でも効果が確認されています)
② 慈を育てる
心の中で「私が幸せでありますように」と唱えます。
慣れてきたら、「家族や友人」「中立の人」「苦手な人」「すべての存在」へと心を広げていきましょう。
③ 悲を育てる
自分の苦しみを思い浮かべて、「私の苦しみが和らぎますように」と唱えます。
次に、困っている人を思い浮かべて、「あなたの苦しみが和らぎますように」と祈ります。
④ 喜を育てる
自分や他者の幸せを見つけたら、「よかったね」と心の中で一緒に喜びます。
他者の幸福を素直に喜ぶ「随喜(ずいき)」は、ねたみをやわらげ、心を豊かにします。
⑤ 捨を育てる
「誰にでも幸せや苦しみがある」と理解し、出来事に過度に執着せず見守ります。
それは無関心ではなく、心の平静から生まれる「公平さ(平等観)」です。

「慈悲の瞑想」のすすめ
四無量心を日常に取り入れるシンプルな方法として、「慈悲の瞑想」を紹介します。
以下の3段階で、自分と他者への思いやりを広げていきます。
まずは自分自身に対して
「私が幸せでありますように」
次に、大切な人を思い浮かべて
「あなたが幸せでありますように」
さらに輪を広げて
「すべての人たちが幸せでありますように」
この瞑想を続けることで、支援者としての心の土台が整い、自分と他者の「QOL(生活の質)」の向上にもつながっていくことを期待します。
「自分にやさしくなれるからこそ、他の人にもやさしくなれる」
この言葉は、四無量心とセルフコンパッションの両方に通じます。
思いやりを育てることは、支援の仕事だけでなく、私たちの生き方そのものを豊かにしてくれるはずです。
今日からほんの1分、そこから、やさしさの連鎖をはじめましょう。
※補足:トラウマ反応や強い不安を感じる場合は、無理をせず短時間で中止し、専門家へご相談ください。
脚注(出典・参考)
1. Nyanaponika Thera (1959). The Four Sublime States: Contemplations on Love, Compassion, Sympathetic Joy and Equanimity.
2. Luberto, C. M. et al. (2017). A systematic review and meta-analysis of compassion-based interventions. Mindfulness, 8(8), 1699–1715.
3. Fredrickson, B. L. et al. (2008). Open hearts build lives: Loving-kindness meditation increases positive emotions. J Pers Soc Psychol, 95(5), 1045–1062.
4. Petrovic, P. et al. (2024). Meta-analysis of kindness and compassion interventions. Nat Hum Behav.
5. Kuyken, W. et al. (2016). Mindfulness-Based Cognitive Therapy (MBCT) – 3-minute breathing space efficacy.
6. Ferrari, M. et al. (2019). Self-compassion interventions and health outcomes: A meta-analysis. Mindfulness, 10, 1455–1468.

国家資格:公認心理師・精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士
その他:SE™プラクティショナー(トラウマ療法)/ TSM(トラウマセンシティブマインドフルネス)修了 など
『努力すること』と『執着を手放すこと』のバランスを研究し、自分自身の最適化を目指して精進中
