オートパイロットを止めた5日間
~ MBSRのサイレントリトリート体験記 ~

マインドフルネスという言葉を、耳にする機会が増えました。けれど、「何となく良さそう」という印象のまま、実際の中身までは知らないという方も多いのではないでしょうか。

MBSR(Mindfulness-Based Stress Reduction)は、1979年にジョン・カバットジンがマサチューセッツ大学医学部で開発した、8週間のストレス低減プログラムです。仏教瞑想を背景に持ちながらも、宗教的枠組みを取り除き、医療・心理・教育の現場で科学的に検証可能な形に再構成されたものです。

MBSR(マインドフルネス・ストレス低減法)8週間トレーニングを実体験!

 

マインドフルネスとは、「いま、この瞬間の体験に、意図的に、評価を加えずに注意を向けること」。

それはリラクゼーション技法ではありませんし、考えをポジティブに変える方法でもありません。

むしろ、自分の内側で起きていることに気づく『態度』のトレーニングです。

第三世代の認知行動療法が「体験との関わり方を変える」ことを重視するように、MBSRもまた、ストレスをなくすのではなく、ストレスとの関係性を変えることを目指します。

今回、私はそのMBSR講師養成講座の一環として、5日間のサイレントリトリートに参加しました。

 

「MBSR講師養成講座」を受け始めた理由

きっかけは、ACE(逆境的小児期体験)に関する書籍でした。

幼少期の逆境体験が脳や神経系に影響を与えることを知る一方で、脳には変化する力があり、実践によって回復の可能性があると学んだことが、わたしのMBSRの入り口です。

この3年はSE™を学び、身体からのアプローチを深めてきました。そして、今度はもっと「気づき」の感覚を自分自身の体験として確立したいと思うようになりました。

人に勧める前に、自分がやる。

それが、私の中の小さなこだわりです。自分の脳や神経系の変化と回復のプロセスを伝えていくことが「MBSR講師養成講座」を受講した動機です。

 

リトリートとは?

リトリートとは、日常生活から離れ、一定期間、瞑想の実践に集中する時間です。

今回は長崎県で19名の養成講座の受講生と共に、5日間のサイレントリトリートをおこないました。

スマホは使用禁止
メモ書きや読書も禁止
参加者同士の会話も禁止
ひと口ずつ箸をおいて食べる精進料理
朝から晩まで一日中、瞑想づくし

そして実は、前日まで重症の下痢でした。

 

「漏らしたらどうしよう」

正直、下痢のことしか考えられない心理状態で現地入りしていました… 呼吸に集中するどころではありません。

また、お酒は当然飲めません。

米と野菜中心の精進料理に対して、肉や魚への欲求がエグい。

そして、人と話せないことが、これほど苦痛なこととは思いませんでした。

「自分はけっこう一人でも大丈夫なタイプ」と思っていたのですが、どうやらその自信は、日常のぬるま湯の上に成り立っていたようです。

 

一番、興味深かったこと

講師の言葉で、とくに印象に残ったのは、

「身体は動きたがる。心は感じたがる。」

という一言でした。

 

私たちは日常、無意識レベルで動かされています。

SNSの通知音
タイムラインを無限にスクロールする指
ながら食事
コンビニのレジ横商品を、ついカゴに入れてしまう手

一見、些細なことですが、私たちは外的な刺激に反応し続け、動き続けています。

これを「オートパイロット状態」と呼びます。

つまり、自動操縦・・・

楽で効率的に見えますが、実は『なにも感じていない・気づいていない』状態でもあります。

 

身体は無意識に動き続け、そして、心は置いていかれる・・・

だから、心が感じやすいように、
あえてゆっくりに
あえて止まる
あえて静かにする

それが、身体と心を再びつなぐために必要な、瞑想の時間なのだと腹落ちしました。

 

アメリカ派生の瞑想プログラム「MBSR」の特長

MBSRでは、英語を用いて瞑想の説明をしてくれるので、面白い表現に出会うことができます。

たとえば、
・Let it go ― 手放す
・Let it be ― そのままにする
・Hold on ― 抱え込む

とくに頑張り屋さんほど、Hold on しやすいと言われます。
一点に集中しすぎて視野が狭まり、かえって判断を誤りやすくなる。

ジョンレノンの有名な歌、 Let it be は奥が深かった。

歌詞の意味を知らずに口ずさんでいましたが、「どうにもならない時は、無理に変えようとせず、ありのままでいい。そのまま受け入れてみよう」というメッセージだったんだと初めて気づきました。

 

「三つの毒」と、気づきという解毒剤

仏教では「三つの毒」という考え方があります。

(もっとほしい/貪)
怒り(いらない/瞋)
無知(気づいていない/痴)

この「無知」は、単なる知識不足ではなく、自分の状態に気づいていないことを指します。

私にとっては、この「無知」が、日常でいう「オートパイロット」として、とても分かりやすく感じられました。

 

スマホの通知に即反応する
空腹でもないのに、つい何かを口にする
疲れているのに、無理をする

現代社会では避けて通れないオートパイロット現象かもしれません。でも、それに「気づいていない」という点で、無知の中にいることになります。

マインドフルネスは、この三つの毒を取り除くものではありませんが、それに気づく力を養うトレーニングだと理解しました。

気づきが生まれることで、欲からも、怒りからも、無知からも、以前よりも支配されなくなる気がします。

 

講師の先生は、マインドフルネスは三つの毒への『解毒剤』と言っていました。

私は、「解毒剤ではあるけれど、毒そのものを消すというよりは、毒に飲み込まれない自分を育てること」と理解しました。

つまり、ストレスを排除するのではなく、ストレスとの関わり方を変えていく。

Let it be ― そのままにする
Let it go ― 手放す

リトリートの期間、瞑想づくしの生活のなかで、その難しさと大切さを体験していました。

 

瞑想の難しさ  vs  ヤッホー・ハロー作戦

1日に4~5回、15分~50分の坐る瞑想(すわる瞑想)がありました。

毎回、目を閉じると、ある出来事が何度も浮かんできます。

その度に
呼吸に戻る
でもまた浮かぶ
また呼吸に戻る
でもまた浮かぶ

消そうとするほど、強くなる思考。まるで、静かにしてほしい時だけ、隣の部屋の物音がやけに気になるような、そんな不快感でした。

講師に相談してみると、「では、今度はその思考をあえてそのままにしてみたら。そして観察してみたら?」と言われました。

(そう言われましても、やり方がよく分からない訳でして・・・)

 

そこで提案されたのが、

迎え入れるという姿勢。友達と出会った時のように、心の中で「ヤッホー」「ハロー」と歓迎する。

さらに、その思考にあだ名をつけてみるとイイですよ。とアドバイスされました。

 

「ヤッホー、〇〇(あだ名)。また来たね!どうしたの?」

そんな感じで実践してみると、思考と自分との間に、ほんの少しスペースが生まれた気がしました。

すると、消そうとしなくても、自然に流れていくよう思考が去っていったのは不思議な感覚でした。

ストレス自体は問題ではなく、むしろストレスとの関わり方に問題があったんだと、体験的に理解した瞬間でした。

そして、私はこの方法に「ヤッホー・ハロー作戦」と命名しました!

 

さいごに

身体は動きたがる
心は感じたがる

その両方を大切にしながら、支援者としても、一人の人間としても、瞑想の実践を続けていきたいと思っています。

SHIPでは、支援技術の習得だけでなく、こうした『在り方』を大切にする学びの機会を積極的に取り入れていきたいと考えています。

トラウマインフォームドケアやマインドフルネスを土台に、支援者自身が整いながら、落ち着いて支援する文化を育てていきたいです。

もしこの姿勢に少しでも関心を持っていただけたなら、社会福祉法人SHIPで一緒にトレーニングできたら嬉しく思います。

採用情報

それでは、今日はこの辺で

アディオス・アミーゴ

 


 

脚注:MBSRの科学的根拠

① MBSRの心理的・神経生物学的効果
マインドフルネス瞑想、特にMBSRはストレス低減や情動調節に関する多くの研究で支持されています。脳の感情処理に関わる領域の変化や、不安・うつ症状の改善などが示されています。• A Calderone 2024 – Mindfulness/MBSRによる情動調整とストレス耐性の改善(レビュー)

記事リンク
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/PMC11591838/

 

② メタ分析:瞑想実践の健康効果
複数の研究を統合したシステマティックレビューで、瞑想実践は主観的ストレス低減や心理的健康に有益であるという結果が示されています。• Luberto et al. 2017 – マインドフルネス瞑想の効果レビュー

記事リンク
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6081743/

 

③ MBSRが注意機能にも影響
瞑想は注意機能に対しても効果があり、注意制御の改善に関するメタ分析が行われています。• 荻島ほか 2016 – 注意機能に対する瞑想の効果(メタ分析)

記事リンク
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282677512485504

 

④ Three Poisonsの一般解説
三つの毒は、greed(欲)、hatred(怒り)、delusion(無知)として象徴され、人間の根本的な苦や煩悩と関連づけられます。• The 3 Poisons – Naturopathic explanation

記事リンク
https://ndnr.com/the-3-poisons-greed-hatred-and-confusion/?utm_source=chatgpt.com