支援の心が折れる前に
~「共感疲労」と向き合うためのマインドフルネス×コンパッション~
障害福祉の現場で、真剣に仕事に向き合うほど、心がすり減っていく。
「私がもっとしっかりしないと」
「この人の苦しみをどうにかしてあげたい」
そんな想いが募る一方で、次第に疲れ果てていく―
そんな経験はありませんか?
私自身、そんな壁に何度もぶつかってきました。
そしてそのたびに、「マインドフルネス」が助けになってくれました。
でも、それだけでは何か足りないなぁ、、という感覚も抱いていました。
「マインドフルネス」と「コンパッション」
マインドフルネスが「苦しみに気づく力」だとしたら、コンパッションは「その苦しみに寄り添う力」のこと。
マインドフルネスでの気づきの対象は、苦しみの感情だけに限定されるものではありませんが、コンパッションの対象は苦しみに限定されているところがポイントになるそうです。
MBCL(マインドフルネスに基づくコンパッショントレーニング)を通じて、この違いとこれらを育むことの必要性を体験ベースで理解することができました。
「念」と「悲」は両輪
マインドフルネスをひと言で表現すると「念」
コンパッションをひと言で表現すると「悲」
このように教わりました。
コンパッションのことは「慈悲」だと認識していたので、「悲」だけが取り上げられると違和感がありました。
でも少しずつ理解が広がってきました。
念(ねん):気づいていること。今ここに在ること
悲(ひ):心を開いて、苦しみに向き合うこと
この2つは、どちらか一方だけでは不完全
念だけでは、苦しみに気づいても何もできず、無力感に陥ることもあるし、
悲だけでは、相手の苦しみに巻き込まれ、自己犠牲や共感疲労に陥ることもある。
だからこそ、「念」と「悲」の両輪を育てることが、支援者にとっての真のレジリエンスにつながるという循環です。
共感疲労は、「念」と「悲」のバランスが崩れたときに起こる?
福祉の現場でよく見られる「共感疲労」とは、他者の苦しみを自分の内側にまで取り込み、その苦しみに飲み込まれてしまう状態です。
「この人がつらいと、私もつらくなる」
「何とかしてあげないと」
そんな “いい支援者” ほど、心がすり減ってしまいます。
でも、早々に「この仕事は向いていない」と結論づけることは考えものです。
まずは「あぁ、今、つらいんだなぁ・・・」と、「苦しみに気づく力(念)」はある。
でも、それとどう共存していくかといった、「寄り添い続ける力(悲)」が育っていないだけなのかもしれません。
「Doingモード」と「Beingモード」の話しを思い出します。
このような場面では、「つらい」気持ちをはやく取り除きたいと「Doingモード」で介入してしまいがちです。
でも、大切なことは「つらい」気持ちと共存しながら「Beingモード」で見守ること。
目の前のその人が、その課題を自分で解決できるはずだと思えるように。
つまり、バウンダリー(境界線)を引けるかどうかが、支援の質に大きく影響します。
マインドフルネスで気づき、コンパッションで支える
共感疲労に対抗するには、「ただ感じる」だけでなく、「優しく支える力」が必要です。
それが、コンパッションの実践です。
マインドフルネスは、
「あ、今つらさに巻き込まれそうだな」と気づかせてくれる力。
コンパッションは、
「でも私は、今ここに穏やかに居て、支え続けることができる」という安定感をもたらしてくれる力。
この2つがそろって初めて、私たち支援者は、苦しみに押しつぶされることなく、人と関わり続けることができるのだと思うのです。
障害福祉の支援者に「コンパッション」が必要な理由
障害をもつ方々の中には、幼少期からの虐待やトラウマ、喪失体験を抱えて生きている人も少なくありません。
その苦しみは言葉にすることがとても難しいため、理解しがたい言動として表出されることもしばしばです。
支援者は、激しい行動を目の前に怖さを感じることもあれば、突然の関係性の断絶されることに心配することもあります。また、信頼されて喜ぶこともあれば、痛烈な批判を浴びせられて凹むこともある。
そして、自分の心が乱高下していることに不安を覚え、
「本当にこの関わり方でよかったのか?」
「もう少し何かできたんじゃないか?」
「でも、もう限界かもしれない・・・」
と、無力感や絶望感に襲われてしまうことがあります。
MBCLの実践を重ねるうちに、支援者としてのプレゼンス(相手に安心や信頼をもたらす存在感)を高めるためには、自分自身のコンパッションを育て続けることが土台になるのだと腹落ちしました。
「セルフコンパッション」から始めていい(と思う)
支援者として、ついつい「相手のため」と無理してしまいがちです。
でも、まず向けるべきは、自分への優しさや労いなのかもしれません。
「私もつらかったよね」
「でも、ちゃんと向き合ってきたよね」
「よくがんばってるよ」
そんな言葉を、自分自身にかけてあげること。
支える自分を「支える力」が必要です。
まとめ:「気づく力」と「寄り添う力」の両方を育てる
マインドフルネスは「苦しみに気づく力」
コンパッションは「その苦しみに寄り添う力」
この2つが合わさることで、支援者として過剰に疲弊することなく、相手の苦しみにも巻き込まれることなく、しっかり支え続ける力を育むことができそうです。
共感疲労に悩んでいる支援者にこそ、マインドフルネスとコンパッションの両輪を育てていくことをおススメしたいと思います。
その実践の積み重ねが、支える自分を「支える力」につながるのではないでしょうか。
共に励みましょう。
それでは、アディオス・アミーゴ

国家資格:公認心理師・精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士
その他:TSM(トラウマセンシティブマインドフルネス)修了・SE™プラクティショナー上級受講中・TFTパートナーなど
『努力すること』と『執着を手放すこと』のバランスを研究し、自分自身の最適化を目指して精進中