魔法が起きる場所を探して
~SHIPスタッフが学んだACTの第一歩~
2025年8月と11月、社会福祉法人SHIPでは、東京福祉大学の古谷教授を講師にお招きし、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)研修を実施しました。※ACT:アクトと読みます
法人内の各事業所から約60名のスタッフが学び合う貴重な一日となりました。
受講後には「よい支援を提供するために、まずは自分がACTの姿勢を身につけたい」といった声があがり、学びを自分の実践に活かそうとする主体性が感じられました。
また、「事業所を超えて皆で顔を合わせて受講できたのが嬉しかった」という声もあり、学びと同時に交流の価値も再確認されたようです。
今回の研修は、古谷教授の研究の一環でもあり、SHIPはその協力団体となりました。
スタッフが心理的柔軟性を高め、不安や困難があっても価値に基づいた行動を続ける力を養う。みんなでその第一歩を踏み出す場となりました。

「ACTとは何か」― 不安を消すのではなく共にある
ACTとは、「アクセプタンス(受容)」と「コミットメント(価値に基づいた行動)」を柱とする心理療法です。
従来の心理療法のように「不安を減らす」「症状をなくす」ことを目標にするのではなく、不安や苦しみを 『そのまま受け入れながら』自分にとって大切な価値に基づいた行動を選び続けること、つまり心理的柔軟性の獲得を重視した第三世代の認知行動療法です。
研修では、ACTの6つのコアプロセス(①「今、この瞬間」との接触、②価値、③コミットされた行為、④文脈としての自己、⑤脱フュージョン、⑥アクセプタンス)が紹介されました。
とくに強調されたのは、「不安や困難を排除しようとしない」という姿勢です。
不安や苦しみは消す対象ではなく、「そのまま共にあるもの」として扱います。
この考え方は、私の大好きな森田療法の姿勢と通ずる部分があり、とても腑に落ちました。
この視点は、支援者自身が抱える葛藤への向き合い方を大きく変えてくれるものでした。

「魔法が起きる場所」― 困難と価値が交わる場所
研修の中で印象的だったのは、古谷教授から語られた「魔法が起きる場所」という表現です。
これは、苦しみや困難がある現実と、自分が大切にしたい価値への取り組みが交わる場所を指します。
まさにそこで、人は大きな変化や成長を遂げることができるのです。
自分にとって居心地のよい場所にいるだけでは成長もありません。回避ばかりではダメということです。
「困難を抱えながらも前進すること」
これこそがACTの基本姿勢であり、心理的柔軟性の真髄のようです。
不安や葛藤を抱えたままでも、自分にとって意味のある行動を選び続ける。
その積み重ねが、人生の充実感やウェルビーイングを高めていく。
講義やワークを通じ、スタッフ一人ひとりがそのことを実感する時間となりました。
また、研修では「バスのモンスター」といった比喩も紹介されました。
心の中に生まれる恐怖や否定的な思考を力ずくで抑え込むのではなく、彼らと同じバスに乗りながら、自分が向かうべき方向へハンドルを切る。
そんなイメージを通して、『不安と共存する』 感覚をつかんでいきました。

「SHIPで学び、成長する」― 支援者としての一歩を共に
今回の研修は、SHIPスタッフにとって、自分自身の働き方や支援の姿勢を見直す大切なきっかけになりました。
不安や困難は、常に隣にあります。
しかし、それを否定せず共に抱えながら、自分の価値に沿って行動を続けていくことで、より良い支援につながっていきます。
そして、その過程こそが私たち自身の成長にもつながるのだと感じました。
社会福祉法人SHIPでは、このようにスタッフが学び続ける場を大切にしています。
福祉の現場で迷いながらも一歩を踏み出したい方、自分の価値に基づいて働きたいと考えている方にとって、SHIPはその学びと実践を両立できる場所です。
「不安を抱えながらも前進する」
このACTの姿勢は、まさにSHIPの支援理念とも重なります。
これからも私たちは、スタッフ一人ひとりが成長し、利用者の皆さまへより良いサービスを届けられるよう、研修や実践を重ねていきます。


国家資格:公認心理師・精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士
その他:SE™プラクティショナー(トラウマ療法)/ TSM(トラウマセンシティブマインドフルネス)修了 など
『努力すること』と『執着を手放すこと』のバランスを研究し、自分自身の最適化を目指して精進中
